(取材・文/ほりきみき)
シムノンの小説は人間の心の機微を描いている
──ジョルジュ・シムノンが書いたメグレシリーズはこれまでに何度も映像化されてきました。今回、メグレを描くにあたり、オリジナリティを意識したところはありましたか。
パイプはメグレのトレードマーク。パイプを吸いながら、煙の中で捜査を続けるメグレの姿が他の作品でたくさん出てきています。それが定番になり過ぎてしまったと感じていたので、この作品では医者から勧められて、禁煙にチャレンジさせました。名残惜しそうにパイプをいじるシーンはありますけれどね(笑)。我ながらいいアイデアだったと思っています。
──メグレは犯人を捜すことよりも被害者が誰なのか、どんな人生を送って来たのかに興味を持っているように思えました。
原作者であるシムノンの小説を読んでいると、メグレの捜査はある人物やその人物が置かれている境遇を描くための1つの道具にすぎないと思えてきます。シムノンのほかの小説も推理小説的なトリックでびっくりするようなものはなく、そもそもシムノンの小説は人間の心の機微を描いているのです。
シムノンの作品を知ったのは子どもの頃です。祖母が寝る前にメグレシリーズをよく読んでいたのがきっかけでした。文体が映画的なところがいいですね。構成が簡潔で、世界観や雰囲気を最小限の言葉で説明する。しかも一見、問題がないように思える人に実は裏があるということがよくあるのです。今でも時々読んでいます。
──メグレはベティと知り合ったおかげで犯人を追い詰めることができましたが、何がそこまでメグレを奮い立たせたのでしょうか。
ベティは原作には存在しない映画オリジナルのキャラクターです。メグレが被害者女性について思いを巡らせていたときに、ベティと知り合い、彼女と被害者女性を重ね合わせたことが事件解決に繋がりました。メグレ自身にも確証があったわけではなく、成り行きからの偶然の産物です。