仕事熱心で評判の介護士が担当してきた高齢者を40人以上も殺害していたことが判明する。彼はなぜそんな凶行に及んだのか。映画『ロストケア』は葉真中顕の第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作を原作とし、日本の介護問題に鋭く切り込んだ作品です。社会に絶望し、自らの信念に従って犯行を重ねる殺人犯・斯波宗典を松山ケンイチ、法の名のもとに斯波を追い詰める検事・大友秀美を長澤まさみが演じ、斯波と大友が互いの正義をかけた緊迫のバトルを繰り広げます。原作を読み、映画化を熱望して企画を立ち上げた前田哲監督に作品に対する思いをうかがいました。(取材・文/ほりきみき)

映画全体を見通して演じる松山ケンイチと長澤まさみ

──大友を長澤まさみさんにお願いしたのはなぜでしょうか。

長澤さんは女優として年を重ねるごとに輝きが増されていると思います。最高に脂が乗っている。松山さんが演じる殺人鬼は信念を持っているので揺るがないし、42人も殺しているので背負っているものも大きい。それに負けずに立ち向かえる人は誰かと考えたとき、長澤さんしか思いつきませんでした。見え方としても、背が高い2人が向き合ったら圧倒的な迫力が出ますしね。なにより、長澤さんはまだ松山さんと共演したことがなく、長澤さんご自身が松山さんとお芝居をしたいと思っていらしたようです。

画像: 映画全体を見通して演じる松山ケンイチと長澤まさみ

一度手合わせしてみたいというのは松山さんの実力を認めているからこそ。実際、現場でもそういう感じがかなりあって、長澤さんと松山さんは暗黙のうちに距離を置いていました。まさにプロの行為ですね。撮影が終わってからは、まーちゃん、ケンちゃんと呼び合うほどに仲良しです
けどね。現場ではお互いに手の内を見せることなく本番で、ドンとぶつかり勝負する。見応え十分な対決でした。とても迫力がありましたよ。

──長澤さんとはどのように大友を作っていきましたか。

大友は明かしてはいけない秘密を抱えている。それをどの頃合いで、どのくらい出すか。長澤さんはそこをちゃんと考えてくれていて、表情の塩梅などをシーンごとに確認した上で演じてくれました。綿密な話し合いの時間を持ててよかったと思います。

──長澤さんが役作りに関して悩んでいたシーンはありましたか。

やはり大友と斯波が対峙するところですね。毎回、「これで大丈夫ですか?」と細かく確認されましたし、「もう一回やらせてください」とおっしゃることは何度かありました。そのくらい気迫を込めて演じられていましたから、最後のシーンは震えましたね。「そうきますか」って感じ。素晴らしい!さすがだと思いました。

あとはお母さん役の藤田さんとのシーンですね。最初のテイクで十分よかったのに、自分の気持ちを大友の状況に持っていきたかったのでしょう。確か4回くらいやりましたが、最終的にすごいものを出してきてくれました。あれが出てくるというのはすごい。ギリギリまで何か違うものを出してくるポテンシャルの深さは恐ろしいものがあります。まさに女優魂を見せていただいた気がします。

──監督からご覧になった、松山ケンイチさん、長澤まさみさんの俳優としての魅力はどんなところでしょうか。

その人になり切って演じるというのはある種、役者なら当然ですが、映画全体を通して捉え、自分が出ていないシーンも考えた上で、“これで大丈夫なのか”まで考える。しかもそれを的確に表現できるのは素晴らしいですね。そんなにすごい芝居をいちばん間近の特等席で、しかも生で見せていただき、それをちゃんと映画の中に収められたというのは幸せでした。

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