ミソジニー問題を抱えている社会を変えたい
──ラヒミは既存の枠組みに立ち向かう存在の象徴のようですね。
6カ月前にイランで抗議運動が起きたとき、みんなのために命を危険に晒してまで抗議運動に参加していた人たちを見て、何千人ものラヒミが町を歩いていると思いました。素晴らしいことです。
私はイランから離れましたが、イランに対する嫌悪は一切ありません。むしろ自分の経験を話して分かち合い、ミソジニーという問題を抱えている社会を変えるために何かすることが自分の責務だと思っています。
──この作品を通じて、ザーラさんが日本の観客に伝えたいことはどんなことでしょうか。
日本には行ったことがないのですが、日本の友人はたくさんいます。日本の映画を見たり、小説を読んだりもしています。ですから、私の知っている日本はそういったものを通して知ったものなのですが、日本とイランは社会として同じような問題点を抱えているのではないかと感じていました。もちろん文化や社会に違いはありますが、男性からの暴力、それに対してどう対応してきたのかが似ているように思えるのです。
この作品に関してはフランスでも、イランでも、ご覧になるみなさんにショックを受けてほしいと伝えています。実際、ショックを受けられたと思いますし、ご覧になった方同士で話をするきっかけにもなったと思います。
連続殺人犯のサイードを人物として重層的に描いており、彼だけが悪いとはしていません。私もサイードはイラン社会の枠組みの被害者だと思っています。この作品はさまざまな社会の鏡のような映画です。日本にも通じるところがあるかもしれません。暴力性を肌で感じて、見るのが辛いシーンもあるでしょう。誰だって自分が住んでいる社会の闇の部分は見たくないですから。そういった意味では気楽に見られる作品ではありませんし、日本でも批判的な意見が出てくるかもしれません。しかし、それを含めて、この作品が社会の在り方について考えるきっかけになってほしい。特に女性は辛い思いをしても諦めずに、意志を強く持っていれば、他者を救うことがあるかもしれないと感じてもらえたらうれしいです。
PROFILE
ザーラ・アミール・エブラヒミ
1981年7月9日生まれ。パリ在住のイラン人女優。テヘラン出身のエブラヒミは、大学で演劇芸術を専攻した。舞台作品や、テレビや映画の人気作品で活躍し、“Help Me”(04)、“Nargees”(07)などの連続テレビドラマで国内の注目を集めた。エブラヒミがイランで出演した長編映画、“Waiting”(01)、“Trip to Hidalu”(06)は、政府による検閲の結果、上映禁止となった。イラン国外では、2017年にカンヌ国際映画祭でプレミア上映されたロトスコープアニメ映画“Tehran Taboo”で世界の注目を集めた。2018年には“Bride Price vs Democracy”の演技で、ニース国際映画祭の最優秀女優賞に輝いた。また “Tomorrow We Are Free”(19)は、タリン・ブラックナイト映画祭やハンブルグ映画祭などで上映された。次作であるギヨーム・レヌッソン監督の“Les Survivants/White Paradise”(22)では、ドゥニ・メノーシェの相手役として主演している。
『聖地には蜘蛛が巣を張る』4月14日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、TOHOシネマズシャンテ他にて全国順次公開
<STORY>
聖地マシュハドで起きた娼婦連続殺人事件。「街を浄化する」という犯行声明のもと殺人を繰り返す“スパイダー・キラー”に街は震撼していた。だが一部の市民は犯人を英雄視していく。事件を覆い隠そうとする不穏な圧力のもと、女性ジャーナリストのラヒミは危険を顧みずに果敢に事件を追う。ある夜、彼女は、家族と暮らす平凡な一人の男の心の深淵に潜んでいた狂気を目撃し、戦慄する——。
<STAFF&CAST>
監督:アリ・アッバシ 『ボーダー 二つの世界』
出演:メフディ・バジェスタニ、ザーラ・アミール・エブラヒミ
原題:HolySpider/デンマーク、ドイツ、スウェーデン、フランス/ペルシャ語/2022/シネスコ/5.1Ch/118分/字幕翻訳:石田泰子/デンマーク王国大使館後援/R-15
配給:ギャガ
©Profile Pictures / One Two Films