喜びや悲しみと共に、人生はこれからも続く――
『それでも私は生きていく』
主人公サンドラは、通訳者として働きながらパリの小さなアパートで8歳の娘リンとふたりで暮らしているシングルマザー。彼女の父ゲオルグは病を患い、仕事、父の介護、子育て・・・と日々やるべきこなすのに精いっぱいで、長年自分のことどころではなかった。そんなある日、旧友のクレマンと偶然再会し、自然と恋に落ちる。病を患う最愛の父に対するやるせない思いと、新しい恋の始まりに対するときめきという相反する感情をサンドラは同時に抱くが・・・・・・。
本作は、ミア・ハンセン=ラブ監督自身の父親が病を患っていた中で脚本を書いた自伝的作品。親の死を意識したときに誰もが感じる無力感や恐れだけでなく、新しい情熱が生まれる可能性も描くことで、人生を愛したくなる感動的な映画に仕上げ、第75回カンヌ国際映画祭でヨーロッパ・シネマ・レーベル賞を受賞。
監督は、サンドラを巡る状況について、「サンドラには逃げ場がないんです。彼女の毎日にはやらねばならないことで溢れています。父親に対して、自分の娘に対して、そして他者の考えを伝えるという役割を担う、自分自身の言葉を主張することのない翻訳者としての仕事に対して・・・サンドラが自分の気持ちを表現できる機会はほとんどありません。一方でクレマンとの関係は熱情的なもので、あまり言葉が介在する余地はない。サンドラは語り合うことよりも、肉体的な愛を通して彼女らしくいられるんです」と説明する。
フランスを代表する俳優レア・セドゥがサンドラを演じ、複雑な心の機微を見事に表現する等身大の魅力を放つ新境地を開拓しているのも注目ポイントだ。
『それでも私は生きていく』
5月5日(金・祝)より、新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
配給:アンプラグド
女性ジャーナリストが聖地の闇に挑む
『聖地には蜘蛛が巣を張る』
イラン・マシュハドで娼婦連続殺人事件が発生、「街を浄化する」という犯行声明のもと殺人を繰り返す“スパイダー・キラー”に街は震撼していた。女性ジャーナリストのラヒミは危険を顧みずに果敢に事件を追うが、一部の市民は犯人を英雄視し、事件を覆い隠そうとする不穏な圧力が漂っていた。ある夜、彼女は、家族と暮らす平凡な一人の男の心の深淵に潜んでいた狂気を目撃し、戦慄する——。
監督は、前作『ボーダー 二つの世界』で異次元の人間ドラマを突き付けた北欧ミステリーの鬼才アリ・アッバシ。2000年代初頭に起こった実際の事件を題材に、私たち人間に潜在する狂気と恐怖を暴き出す。主演のザーラ・アミール・エブラヒミは、本作で第75回カンヌ国際映画祭女優賞を受賞。
『聖地には蜘蛛が巣を張る』
4月14日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、TOHOシネマズシャンテ他にて全国順次公開
配給:ギャガ
©Profile Pictures / One Two Films
深夜ラジオがつなぐ、愛おしく大切な7年間の物語
『午前4時にパリの夜は明ける』
結婚生活が終わりを迎え、ひとりで子供たちを養うことになったエリザベートは、深夜放送のラジオ番組の仕事に就くことに。そこで出会った家出少女のタルラを自宅へ招き入れる。ともに過ごすなかで家族はそれぞれの人生を見つめ直していく・・・。不安や戸惑いを覚えながらも1歩ずつ前へと進んでいくエリザベートの姿が、観るものの胸を打つ。
前作『アマンダと僕』が高く評価されたミカエル・アース監督の幼少期に実際に放送されていた番組をモデルにし、芸術の転換点ともいえる1980年代のパリを舞台に、深夜ラジオがつなぐ、愛おしく大切な7年間の物語。第72回ベルリン国際映画祭コンペティション部門正式出品。主人公エリザベートを演じるのは、シャルロット・ゲンズブール。
『午前4時にパリの夜は明ける』
4月21日(金)よりシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー
配給:ビターズ・エンド
© 2021 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA
新たな世界に飛び込んだ大学生が、自分らしい生き方を探す
『セールス・ガールの考現学』
モンゴルの大学生であるサロールは、同級生の代わりに、街角のビルの半地下にある怪しげなアダルトグッズ・ショップのアルバイトをすることに。店を訪れるさまざまなタイプのお客たちと接するフィールドワークさながらな日々の中で、彼女が少しずつ世界を広げて成長して行くさまを描き出す。
“モンゴル映画”に対する固定観念をひっくり返す、都会に暮らす女の子を主人公にした物語で、ショップの女性オーナー、カティアによる機知に富んだアドバイスの数々やふたりの間に芽生える不思議な友情にも注目。監督はモンゴル・アカデミー賞常連のセンゲドルジ・ジャンチブドルジ。
『セールス・ガールの考現学』
配給:ザジフィルムズ
4月28日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
© 2021 Sengedorj Tushee, Nomadia Pictures
プレッシャー、疑惑・・・追い詰められていく指揮者
『TAR/ター』
世界最高峰のオーケストラの一つであるドイツのベルリン・フィルで、女性として初めて首席指揮者に任命されたリディア・ター。作曲家としても、圧倒的な地位を手にしたターだったが、マーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャー、そして新曲の創作に苦しんでいた。そんな時、かつて彼女が指導した若手指揮者の訃報が入ったことである疑惑をかけられ、追いつめられていく。
崇高なる芸術と人間の欲望と狂気が交錯し、誰も体感したことのない禁断の交響曲を奏でる、驚愕のサイコスリラーだ。『イン・ザ・ベッドルーム』などのトッド・フィールド監督16年ぶりの最新作で、本年度アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞など主要6部門ノミネート。主人公のターを演じるのはアカデミー賞俳優ケイト・ブランシェット。
『TAR/ター』
5月12日(金) TOHO シネマズ日比谷他全国ロードショー
配給:ギャガ
© 2022 FOCUS FEATURES LLC.