主人公の人生に能の演目「邯鄲」を忍ばせた
──村社会の閉塞感がベースにある物語ですね。企画のきっかけをお聞かせください。
スターサンズの河村(光庸)さんの企画でしたが、暗礁に乗り上げてしまったので助けてほしいという連絡があったのです。僕は河村さんと別の企画をやっていたので、スケジュールがないのをご存知なのに「この企画を実現できるのは藤井くんしかいない」とおっしゃる。覚悟を決めて引き受けました。
河村さんにははっきりとしたイメージがあるものの、脚本を書ける人ではありません。任せた監督の作家性を信じてくれますが、何をどう描きたいのかという思いが正確に伝わらないこともある。僕はたまたま河村さんと馬が合う部分があるので、彼が何を欲しがっているのかがわかるし、彼が欲しがっているものを僕が面白いと思える。毎回、プレッシャーは半端ないですが、そこは割り切って、今回も河村さんがやりたいことをヒアリングして脚本に落とし込んでいきました。
──物語は能の演目「邯鄲」にインスパイアされていますね。
コロナ禍で「エンターテイメントは本当に必要なのか」と問われました。それに対して河村さんは「エンターテイメントは必要」という答えを日本最古の芸能である「能」をベースにした物語にすることで示そうと考えたのです。
僕は能についてあまり素養がなかったので、ヘアメイクの橋本(申二)さんから能楽師の塩津圭介さんを紹介していただき、いろいろ教えていただきました。その中で作品の核として「邯鄲」が決まり、その物語に魅了され、片山優の人生に「邯鄲」を重ねるのではなく、沿わすというか、忍ばせることでどういう作品になるかというところをトライしました。
──脚本の執筆は大変でしたか。
苦労と困難しかなかったですね。村社会の閉塞性を描いていますが、村出身ではない。しかし、河村さんがやりたいことを考えると、村社会と言いながらも日本社会の縮図であるならば、この映画は撮れると思ったのです。とはいえ河村さんがやりたいことは点在していて、それを繋げて線にするには勉強が必要。なかなか時間が取れなくて、4月にクランクインでしたが、3月後半まで脚本を書いていました。ですから決まっていないことが多い中、ロケハンをするなど、自分にとっても戦いだったと思います。
『ヴィレッジ』4月21日(金)全国公開
<STORY>
美しいかやぶき屋根が並ぶ山あいの霞門村。のどかな景観におよそ似つかわしくないゴミ処理施設がそびえる山々の間からのぞく。そこで働く作業員の優(横浜流星)は、職場と家を往復するだけの毎日で、暇つぶしといえばスマホゲームぐらい。仕事中は村長の息子である透(一ノ瀬ワタル)にいびられ、わずかな給料も母親の君枝(西田尚美)がギャンブルで作った借金の返済に消えていく。そんな母子に村人たちが向ける目は冷たかった。かつて父親がこの村で起こした事件の汚名を背負い、その罪を肩代わりするようにして生きてきた優には、人生の選択肢などなかった。
ある日、7年前に村を出て行った幼馴染の美咲(黒木華)が帰ってきた。それをきっかけに物語は大きく動き出す。
監督・脚本: 藤井道人
音楽:岩代太郎
企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸
出演: 横浜流星 黒木華
一ノ瀬ワタル 奥平大兼 作間龍斗/淵上泰史 戸田昌宏 矢島健一/杉本哲太 西田尚美 木野花/中村獅童 古田新太
配給:KADOKAWA/スターサンズ
© 2023「ヴィレッジ」製作委員会
公式サイト:https://village-movie.jp/