【インタビュー】シャーロット・ウェルズ監督が語る『aftersun/アフターサン』のルーツ
「自分の記憶を辿るプロセス自体が物語の一部になりました」
シャーロット・ウェルズ
1987年、スコットランドに生まれ、ニューヨークを拠点とするフィルムメーカー。ニューヨーク大学在学中に3本の短編映画を制作し、2作目『Laps』は2017年のサンダンス映画祭で編集部門のショートフィルム特別審査員賞を受賞。2018年には「フィルムメーカー・マガジン」の“インディペンデント映画の新しい顔25人”に選ばれた。長編初監督となった本作で英国アカデミー賞英国新人賞をはじめ数々の賞に輝いた。
──本作のアイデアはどこから生まれたのでしょうか?
出発点はいくつもあるので、一つに絞ることは難しいのですが、初短編『Tuesday』のアイデアを発展させたものだと言えます。でも昔の休暇中の写真を見ていて、アイデアはより明確に見えてきました。父と同じ年齢になった頃だったと思うのですが、彼の若さにビックリしました。そこから何年もかけてアイデアを温めていったのです。脚本を仕上げるまで長い道のりでした。
最初はもっとストレートな分かりやすいストーリーで、若い父親と娘が一緒に休暇を過ごし、2人の関係の苦労や試練を思い描いていました。でも書いていくうちに、自分の過去を振り返り、記憶をアウトラインに反映させていきました。次第にそのプロセス自体がストーリーの一部となっていったのです。
──父親カラム役にポール・メスカルを選んだ理由を教えていただけますか?
当時、ポールは25歳で私たちが考えていたより少し若かったけれど、30~31歳の実年齢より若く見えるというキャラクター設定だったので、ポールには無理なくできました。初めて彼とチャットしたとき、ポールは脚本を深く読み込んでいて、早い段階での熱意にすごく感心しました。
ポールとの仕事は、まさに私が望んでいたとおりのコラボレーションでした。今まで一度も演技をしたことのないフランキー(・コリオ)が力強いパフォーマンスをできたのは、私の演技指導だけじゃなくポールのおかげでもあります。
ポールとフランキーには、お互いを知ってもらうためにそっとしておきました。撮影前の2週間、毎日まず私が彼らと数時間過ごして、その後は彼らが2人で過ごしていました。ビーチに行ったり、ビリヤードをしたり、アイスクリームを食べたり…。
彼らが本物の絆を築き、お互いを好きになる様子を見ていて嬉しかった。製作中も2人が一緒に過ごす時間は続いていて、それが物語に不可欠な家族の親密さを感じさせる鍵になりました。
──本作が影響を受けた監督や作品はありますか?
ソフィとカラムが一緒に太極拳をするシーンは、ヴィム・ヴェンダース監督の『都会のアリス』(1974)にインスパイアされました。水中のシーンを撮るときはソフィア・コッポラ監督の『SOMEWHERE』(2010)が念頭にありましたね。
部屋を360度回るシーンは、シャンタル・アケルマン監督の1972年の短編『部屋』に影響を受けています。私は同じ部屋にとどまらず、空港に切り替えるのですが、それは別の監督の作品を参考にしています。
また小さなジェスチャーとか細かい描写のときは、リン・ラムジー監督の作風を常に考えています。彼女が作り出すイメージがなぜあのように刺激的に映るのか、未だに解明できずにいます。
キャストが語るシャーロット・ウェルズ監督
フランキー・コリオ
シャーロットは撮影中にいろいろ教えてくれました。自信に満ちたいいアドバイスをくれました。私がちゃんとできるように、たくさん助けてくれたんです。彼女はいい映画にするアイデアを持っていて、私は自然体でやれました。彼女は本当にいい監督だと思います。
ポール・メスカル
初めての映画なのに、かなり遠い場所での撮影で、2人の主演俳優のうち1人は演技未経験の子役というのに僕は感銘を受けていました。でもシャーロットは自分の脚本と周りの人たちの仕事を全面的に信用していて、一からサポートしてくれるんです。
俳優へのアプローチの仕方もすごく丁寧で、フランキーにもキャラクターについて優しく説明して指導していました。フランキーが心から演技を楽しんでいる姿を見ることができて、すごくうれしかった。
子役と演技するときは、じっくり話し合ったり考えたりしない。大人の俳優となら(役のことを)徹底的に話し合うことができます。だけどフランキーとは、彼女が思ったとおりに起きたことをそのまま演技に生かしていました
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『aftersun/アフターサン』
2023年5月26日(金)公開
イギリス=アメリカ/2022/1時間41分/配給:ハピネットファントム・スタジオ
監督:シャーロット・ウェルズ
出演:ポール・メスカル、フランキー・コリオ、セリア・ロールソン・ホール
© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022