何をするにも1秒早いハジメと1秒遅いレイカ。ハジメが失った1日をハジメとレイカそれぞれの視点から描く。岡田将生と清原果耶がW主演を務める映画『1秒先の彼』はせっかちなハジメとのんびり屋・レイカのシンプルでピュアなラブストーリー。チェン・ユーシュン監督の台湾映画『1秒先の彼女』(2020)のリメイクです。『天然コケッコー』(2007)の山下敦弘監督が脚本家・宮藤官九郎と初タッグを組みました。公開を前に山下監督のインタビューを敢行。オリジナル版との違いやキャストについてなど、語っていただきました。(取材・文/ほりきみき)

びっしり書き込まれた加藤雅也のシナリオ

──ハジメの両親の関係性をオリジナル版よりも踏み込んで描いているように思いました。

オリジナル版を見たときにお父さんの描かれ方がちょっと唐突な気がしたので、リメイクするにあたって、そこをもう少し丁寧に描こうと思っていました。お父さん、お母さんの件はオリジナル版とは違っていると思います。

──お父さんの思いがしっかり伝わってきました。

家族を捨てた親父の、親父なりの言い分を宮藤さんがちゃんと書いてくれたのです。何の言い訳にもなっていませんけれどね(笑)。それを加藤(雅也)さんが哀愁を込めて演じてくれました。難しい役どころですが、加藤さんはさすがです。

──加藤雅也さんとはどのようにハジメの父親を作っていかれましたか。

衣装合わせのときから世間話も含めて、いろいろ話をしました。加藤さんが「お父さんは幽霊みたいなものかもしれない」とおっしゃって、そこから話をいろんな方向に広げながら、最終的には「監督がこうしてくれと言ってくれれば、そういう風にやるから」と言っていただきました。

そういえば加藤さんのシナリオを見たら、びっしり書き込んであったのです。相当考えてきてくれたんだなと思いました。すごく真面目な方。しかし、生真面目ではなく、真剣にダメな役をやってくれる。しかも現場では勢いで演じるタイプ。豪快で気持ちのいい方でした。

画像: 平兵衛(加藤雅也)

平兵衛(加藤雅也)

画像: 清美(羽野晶紀)

清美(羽野晶紀)

──ハジメの母を羽野晶紀さんが演じていましたが、羽野さんとはいかがでしたか。

羽野さんともよく世間話をしていました。羽野さんは京都府宇治市出身で、途中、鰻屋の五郎ちゃんが出てきますが、あの鰻屋は系列店が羽野さんのご実家のご近所にあって、昔からよくご存じだそうです。

──オリジナル版では主人公の父親が失踪した後、母親は住まいを引き払って実家に戻る選択をしますが、日本版ではいつ帰ってきてもいいようにと、宇治の家から離れません。この違いにはどのような意図があるのでしょうか。

帰ってこないお父さんをずっと待っているお母さんの思いが切ないですよね。俺から注文したわけではないけれど、宮藤さんが書いてくれました。

お母さんはラジオに乱入して「お父さんはお母さんから逃げたのではなく、現実から逃げた」と語っていました。無茶苦茶なお母さんですけれど、これも羽野さんだから成立したのだと思います。宮藤さんのあの膨らまし方は見事でした。

──これからご覧になる方にひとことお願いします。

すごく入り組んだ作品に思えるかもしれませんが、実はシンプルでピュアなハジメとレイカのラブストーリーです。まずは何も考えずにご覧いただければと思います。オリジナルをご覧になっている方には見比べる面白さもあります。

伏線を細かく散りばめましたので、気に入っていただけたら、2回、3回劇場に足を運んでいただくと気づくところがあると思います。何回も噛みしめてご覧いただけるとうれしいです。

<PROFILE>
監督: 山下敦弘

1976年8月29日、愛知県出身。大阪芸術大学映像学科卒。卒業制作の『どんてん生活』(99)が内外で評判を呼び、脚本の向井康介とのコンビによる“ダメ男三部作”『ばかのハコ船』(03)、『リアリズムの宿』(04)へと繋がる。『リンダ リンダ リンダ』(05)がスマッシュヒットを飛ばし、続く『天然コケッコー』(07)では第32回報知映画賞監督賞、第62回毎日映画コンクール日本映画優秀賞等を受賞、高評価を得て新人の岡田将生を輝かせた。以降『マイ・バック・ページ』(11)、『苦役列車』(12)、ドラマ「午前3時の無法地帯」(13/共同監督・今泉力哉/ BeeTV)、『もらとりあむタマ子』(13)、『味園ユニバース』(15)、『オーバー・フェンス』(16)とキャリアを順調に積み重ね、作家性と娯楽性とを兼ね備えた作風を確立してゆく。『ハード・コア』(18)では第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。宮藤官九郎とは『ぼくのおじさん』(16)やテレビドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」(20/TX)での宮藤官九郎の助演、大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(19/NHK)での山下敦弘の出演と控えめなコラボはあったが、監督と脚本家という立場で組むのは初。公開待機作に和山やま原作、野木亜紀子脚本による『カラオケ行こ!』、ロトスコープアニメーション映画『化け猫あんずちゃん』(共同監督・久野遥子)等がある。

『1秒先の彼』7月7日(金)よりTOHO シネマズ日比谷ほか全国にて公開

画像: 映画『1秒先の彼』 30秒予告*岡田将生×清原果耶 W主演*7/7(金)公開 youtu.be

映画『1秒先の彼』 30秒予告*岡田将生×清原果耶 W主演*7/7(金)公開

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<STORY>
郵便局の窓口で働くハジメは、何をするにもとにかく1秒早い。記念写真では必ず目をつむり、漫才を見て笑うタイミングも人より早い。街中で路上ミュージシャン・桜子の歌声に惹かれて恋に落ちたハジメは花火大会デートの約束をするも、目覚めるとなぜか翌日に。“花火大会デート”が消えてしまった…!? 秘密を握るのは、毎日郵便局にやってくる、何でも1秒遅い大学7回生のレイカらしい。ハジメは街中の写真店で、目が見開いている見覚えのない自分の写真を偶然見つけるが…

<STAFF&CAST>
監督: 山下敦弘
脚本: 宮藤官九郎
出演: 岡田将生、清原果耶、荒川良々、福室莉音、片山友希、加藤雅也、羽野晶紀、しみけん、笑福亭笑瓶、松本妃代、伊勢志摩、柊木陽太、加藤柚凪、朝井大智、山内圭哉
2023年/日本/カラー/DCP/5.1ch/ヨーロピアンビスタ/119分
配給:ビターズ・エンド
©2023『1秒先の彼』製作委員会
公式サイト:https://bitters.co.jp/ichi-kare/

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