「遠野物語」をベースに現代にも残る社会問題に切り込む
──『リベリアの白い血』、『アイヌモシㇼ』に続き、マイノリティを描いた作品ですが、これまでの作品と違い、フィクションに徹しています。主人公もこれまでは男性でしたが、今回は女性です。何か意図があるのでしょうか。
これまでとは違うことをしようと思ったわけではありません。「遠野物語」に描かれている世界観や人物に惹かれ、それを描きたいと思ったときに、インスパイアされて現代劇にするのではなく、その話が生まれたであろう時代設定の方が描きたいものに近づけると思ったのです。その結果、フィクション性が高くなり、キャストも全員、役者さんにお願いすることにしました。
また、今、作る意味を考えると、できるだけ、現実社会で起きている、さまざまな問題に重ね合わせたい。そこで思い浮かんだのが男女差別です。日本は世界的に見ても男女差別が未だ根強く残っています。女性がたくましく生きる姿を描くことに意味があるのではないかと思いました。
時代物をやろうとか、次は女性を主人公にしようということが先に合ったわけではなく、描きたいことが先にあって、それに対するアプローチを1つ1つ選択していった結果、この作品になったのです。
──「遠野物語」に着想を得たとのことですが、そもそも「遠野物語」に興味を持ったきっかけは何かあったのでしょうか。
長い海外生活を経て、日本や日本人について客観的な視点も持つようになり、アイヌのことを題材にした『アイヌモシㇼ』を撮りました。その際に、アイヌのさまざまな伝説や民謡を通じて、当時の人や語り継いできた人たちの姿だけでなく、文化や風習、信仰が見えてきました。その流れで、日本の昔話はどうなんだろうと思いはじめました。
「日本書紀」や「古事記」といった国の政策として書かれた歴史書もありますが、自分は社会の隅にいる人間に興味がある。昔の民衆の声は民話や伝説という形でしか残っていないのではないかと思い、「遠野物語」に行き着きました。
──共同脚本として長田育恵さんが参加しています。長田さんはオペラシアターこんにゃく座 オペラ「遠野物語」(2019年)の台本を書かれていますが、本作ではどのような役割を果たしていただいたのでしょうか。
舞台で「遠野物語」を取り上げていたことも大きかったのですが、そもそも「遠野物語」に興味や関心をお持ちで、その理由も近しいものがあり、描こうとしているものを同じ方向を見ながら作れると思ったのです。女性が主人公ですから、共同脚本家は女性の方にお願いした方がいいのではないかということもありました。
まず、自分が初稿を書き、長田さんに手を入れてもらい、それに僕も手を入れて…といった感じのキャッチボールをしました。初稿を書いたのが2020年の初めで、クランクインしたのが2021年秋ですから、1年半くらい掛けて仕上げました。
──ベルリンのNIPKOWプログラムに受かったものの、コロナ禍で現地に行けず、オンラインで講師の指導を受けたそうですね。
日本の土着的な話ではありますが、日本人だけに向けて作っているわけではありません。予備知識がなくても伝わる作品にしたい。具体的な指導内容はいろいろあったのでひとことでは言えませんが、どうしたらストーリーがもっと強くなるかという観点で多くのフィードバックをいただけたので、1ストーリーとしてのドラマ性は強くなったと思います。