第二次世界大戦を舞台に、ウクライナ人の母が自分の娘だけでなく、同じ屋根の下で暮らしていたポーランド人、ユダヤ人の娘も懸命に戦火から守り抜く。映画『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩』はウクライナ人脚本家の祖母の体験を基にした物語です。ドキュメンタリーを主戦場とするオレシャ・モルグネツ=イサイェンコ監督がロシアによるウクライナへの侵攻を予感していたかのように2021年に制作しました。SCREEN ONLINEでは監督にインタビューを敢行。ウクライナでの上映状況や子役への演出などについて語っていただきました。(取材・文/ほりきみき)

ミステリータッチにして子どもたちの成長した姿も見せる

──次々と厳しい出来事が起こりますが、それを直接的には映し出していません。どんな演出意図があるのでしょうか。

大人だけでなく、子どもにも見てもらいたかったので、直接的な暴力は描かないようにしました。

ソフィアや子どもたちは何か悪いことが起こっているのはわかっているけれど、家の中にいるので自分の目では見ていません。観客にも登場人物の感情をよりリアルに感じてほしかったということもあります。

画像1: ミステリータッチにして子どもたちの成長した姿も見せる

──世界的な人気歌手が戦争当時を振り返る形を取っていて、その歌手が誰なのかは最後までわかりません。このようなミステリータッチの形にしたのはなぜでしょうか。

子どもたちが成長していく様子まで描きたかったのですが、それでは長くなってしまいます。1970年代になってようやくソ連から出られるようになりましたから、それを使ってミステリータッチな展開にしたのです。2時間くらいの尺に収めつつ、子どもたちの成長した姿を見せることができ、映画のラストも明るいものになりました。

──ソフィアはシベリアに流刑されてしまいました。日本人で戦後、シベリア抑留されていた人がいましたが、ウクライナでも同じようなことがあったのでしょうか。

1944~1946年辺りはとても多くのウクライナ人が国外退去させられて、強制収容所に送られましたが、開拓に参加するためにシベリアにも送られていました。ですからソフィアがシベリアに送られたのは偶然ではありません。今もシベリアにはウクライナ系の人がとても多いです。以前、検索をしたところ、私と同じ名前をしている人がシベリアに住んでいて、彼女の曽祖父は私の曽祖父と出身地が同じでした。

画像2: ミステリータッチにして子どもたちの成長した姿も見せる

──ウクライナ、ポーランド、ユダヤの3家族が登場し、戦時下でもそれぞれの伝統行事を行っていた様子が描かれていました。演出する上でどんなことを意識されましたか。作品タイトルであり、ポーランドの新年を祝う「キャロル・オブ・ザ・ベル」という曲に対する監督の思いについてもお聞かせください。

主人公たちは戦争の時代に生きているので、平和な時代と同じようには伝統行事をすることはできません。それでも、文化の違いを表現するために、当時の状況を考えながら、できるだけ作品に取り入れるようにしました。

「キャロル・オブ・ザ・ベル」はウクライナで古くから歌い継がれている民謡「シェドリック」に1916年“ウクライナのバッハ”との異名を持つ作曲家マイコラ・レオントーヴィッチュが編曲し、英語の歌詞をつけたもの。“ウクライナ人、ウクライナ語、ウクライナ文化が存在している”ことを歌っています。昔からずっと好きな曲でした。今、この曲を聞くとこの作品を撮っていたときのことを思い出しますし、キャストや素敵な歌声で歌を歌ってくれた子役の子たちを思い出します。曲との絆が以前よりも深くなった気がします。

<PROFILE>
監督:オレシャ・モルグネツ=イサイェンコ
1984年ウクライナに生まれる。キーウ国立演劇映画テレビ大学を卒業し、卒業制作映画“MOLFAR(08)”がモスクワで開催された「21世紀の新しい映画祭」にて審査員賞を受賞。以降はテレビドキュメンタリーを中心に活動。本作が長編劇映画監督作品2作目となる。

『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩』本日7月7日(金)より全国公開

画像: 映画『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩』本編映像《「キャロル・オブ・ザ・ベル」の歌唱》/7月7日(金) 全国公開 youtu.be

映画『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩』本編映像《「キャロル・オブ・ザ・ベル」の歌唱》/7月7日(金) 全国公開

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<STORY>
1939年1月、ポーランドのスタニスワヴフ(現ウクライナ、イバノフランコフスク)にあるユダヤ人が住む母屋に店子としてウクライナ人とポーランド人の家族が引越ししてくる。ウクライナ人の娘ヤロスラワは音楽家の両親の影響を受け歌が得意で、特にウクライナの民謡「シェドリック」=「キャロル・オブ・ザ・ベル」は、歌うと幸せが訪れると信じ、大事な場面でその歌を披露する。第2次大戦開戦が始まり、ポーランド人とユダヤ人の両親は迫害によって連れ去られ、娘たちが残される。ウクライナ人の父もナチスによる粛清によって処刑されてしまう。ウクライナ人の母であり歌の先生でもあるソフィアは自分の娘ヤロスラワだけでなく、ポーランド人の娘テレサ、ユダヤ人の娘ディナの3人の娘たちを必至に守り通して生きていく。
戦況は悪化し、残されたソフィアは3人の娘に加えて「この子には罪はない」と言ってドイツ人の息子を匿うことになるのだった…。

<STAFF&CAST>
監督:オレシャ・モルグネツ=イサイェンコ
脚本:クセニア・ザスタフスカ
撮影:エフゲニー・キレイ
音楽:ホセイン・ミルザゴリ
美術:ブラドレン・オドゥデンコ
出演: ヤナ・コロリョーヴァ、アンドリー・モストレーンコ、ヨアンナ・オポズダ、ポリナ・グロモヴァ、フルィスティーナ・オレヒヴナ・ウシーツカ
2021/ウクライナ・ポーランド/ウクライナ語/ビスタ/122分/原題:Carol of the Bells
配給: 彩プロ

公式サイト:https://carolofthebells.ayapro.ne.jp/
7月7日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

© MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020

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