身体として役を掴むことで精神性も理解し、“小曾根百合”を体現した綾瀬はるか
──小曾根百合を演じた綾瀬はるかさんとは「Jam Films『JUSTICE』」(2002)以来、20年ぶりですね。
綾瀬とは久しぶりに仕事をしたのですが、あの頃は役を演じるというよりも、本当に純真でそこに存在するだけでいいという感じでした。それが、今はまったくの別人。言葉は交わさなくても、全部見せてくれる。それに対して現場で調整するくらい。百合に関して事前に会話をしたことはほとんどなかった気がします。
──脚本を読んで綾瀬さんが百合を作り込んできてくれたのでしょうか。
背景の話などを伝えたところ、それを理解した上で、綾瀬が今回の役作りのためにいちばんやったことはアクションなんですよ。“小曾根百合”は幣原機関で水野寛蔵から訓練を受け、東アジアを中心に3年間で57人の殺害に関与し、各国大使館から「最も排除すべき日本人」と呼ばれた美しき諜報員。綾瀬はアクションを完全に体得するだけでなく、むしろ凌駕して、別の動きをされてもすぐに動けるようなレベルまでいかないと“小曾根百合”を作り上げられないと感じていたと思います。まずは身体として役を掴むことで精神性も理解し、“小曾根百合”を体現してくれました。
立ち姿、歩き姿1つにしても“小曾根百合”でしたから、突然、演出しても「百合ならこうするだろう」と思うくらい、研ぎ澄まされたものが感じられ、現場ではとても頼りにしていました。そういう意味で見ているとすごくたくましい女優になったと感じましたね。
──精神性という意味では、ランブルにヤクザの組長が訪ねてきて、後ろ盾になることをほのめかされたとき、毅然として正座する百合の後ろに水野寛蔵の存在を感じました。
百合には感情を吐露するような言葉や表現、例えば、泣くとか喚く、叫ぶといったことは全くありません。ほとんどのシーンにおいて静謐です。2人の愛すべき人たちを喪失したものの、水野寛蔵という男からの教えを今も守り、美しい衣装を身にまとう。揺らぎがないですよね。
殊更大きな出来事によって百合の精神性を表現するのではなく、端々にある綾瀬の佇まいでそれを感じていただければと思っていましたから、そういっていただけると、とてもうれしいです。
──綾瀬さんが演じた“小曾根百合”の生きる姿勢に気高さを感じます。
大正時代は女性が活躍できる時代ではありませんでしたが、その中で“小曾根百合”は凛とした姿でブレずに生きている。
最近、女性の活躍が目まぐるしく、時代が“小曾根百合”についてきた気がします。しかし、その“小曾根百合”は綾瀬が演じて作り上げたもの。この作品を見て、心が震えたと言ってくれた女性の方が何人もいましたが、そこに導いてくれたのは間違いなく綾瀬です。
──綾瀬さんは女優として今が旬ですね。
綾瀬は今、本当にいい時期だと思います。『リボルバー・リリー』の“小曾根百合”は綾瀬しかできない役で、彼女もそれをちゃんと掴み取って表現しましたし、これを超えた次のステージが開かれているのを感じながら撮影していました。
デビューの頃を知っているので、20年間に綾瀬がいろんなことを積み上げてきた結果、ここに到達しているとしたら、本当に素晴らしいなと思いますね。