関東大震災の翌年、冷徹非情な諜報員で「リボルバー・リリー」呼ばれた小曾根百合が消えた陸軍資金の鍵を握る少年・細見慎太と出会い、陸軍の精鋭から追われる。映画『リボルバー・リリー』はハードボイルド作家・長浦京が第19回大藪春彦賞受賞した同名小説が原作。綾瀬はるかが主人公の小曾根百合を演じ、エレガントな衣装でアクションシーンをこなしつつ、戦うことの無意味さをを丁寧に表現しています。初めてのアクション作品に挑んだ行定勲監督に、作品に対する思いや綾瀬はるかさんについてなど、たっぷり語っていただきました。(取材・文/ほりきみき)

最後のドレスの“白”はキャスト・スタッフみんなの総意

──百合の衣装も印象に残りました。

衣装の黒澤和子さんは大正時代の衣装情報にも長けていらっしゃって、「あの時代のリアルに寄せてしまうと洋装はいまひとつ、いいものがない」といい、「アメリカやヨーロッパで流行っていたフラッパーのスタイルが日本に入ってくるのは15年後くらいだけれど、滝田という男が何かで入手して、自分なりのオリジナルとして作り上げたとすればいいのではないか」と提案してくれました。そういう意味では主人公のエレガントさはちょっと先取りをしていて、周りには同じようなものを着ている人がいません。

百合を愛し、導いた水野寛蔵は「殺し合いにも身だしなみは大事だ」という言葉を百合に授けています。これはシナリオを書く際、最初に書いた1行で、この作品の指針でもあります。これがなかったら、百合が日本陸軍と撃ち合っているときにドレスを着ているのは荒唐無稽になってしまいます。黒澤さんにも「荒唐無稽にならず、説得力みたいなものがあるようにしてほしい」と話したところ、黒澤さんは「アクションができるものはいくらでも作れる」と力強くおっしゃってくださって、その機能性のあるエレガントさが画映えし、うまく着地できたと思います。

画像: 最後のドレスの“白”はキャスト・スタッフみんなの総意

──ポスターに使われている白いドレスは本当に素敵ですね。

最後に滝田が百合を送り出すときに、彼女が来ていた服ってどんなデザインで、どんな色なんだろうと考えたんです。野村萬斎さんが滝田の役に決まったときに、「滝田が最後に百合のために作って送り出す衣装って何色ですかね?」と聞いたら、「やっぱり白でしょう」とおっしゃったのです。黒澤さんにうかがっても「白でいいんじゃない」と。スタッフの誰に聞いても白だという。いろんな意見が出てもおかしくないのに、みんなが白といのは珍しい。それくらい、みんなの百合に対する気持ちが一致していました。

ある種、ウエディングドレスにも見えるような白い衣装を着て、返り血を浴びても戦い続ける。そういう幻想的なシーンになってもいいのではないかと思っていました。

──返り血だけでなく、自らも傷つき、血が流れ出したことが一目瞭然でわかります。

圧倒的に強いヒロインを描くアクション映画という方向性もあったとは思いますが、僕が作る作品はそうじゃない。もっと気迫があり、自分が撃たれても死ぬような女ではなく、それを越えて体を張って生きていくような強さ、むしろそっちかなと思ったのです。

──銀座周辺のセットも素晴らしく、ノスタルジーを感じました。

銀座は原作の中でもすごく重要です。銀座のどの辺りという感じを想定しつつ、NHKのワープステーションをベースにVFXも加えて、あのような街並みにしました。百合が滝田洋裁店から出てきたところは、奥に本作ゆかりの松坂屋銀座店が見えるようにして、そちらに向かって歩いて行っているという想定で撮ったのです。

クライマックスは銀座から帝国ホテルを超えて、日比谷公園を抜けたところの何百メートルか先にある海軍省に向かっていきます。銀座を知っている方々に「柳の木のある道はあの辺りでは?」などと、抽象的ではあるけれど銀座というものを感じていただければと思っていました。

──これからご覧になる方にひとことお願いします。

お話をいただいてから丸2年、この作品のことだけを考えてやってきました。20数年間の監督スキルをすべて出し切っただけでなく、スタッフ、キャスト総出でいろんな知恵を出し合い、作り上げた渾身の作品です。

撮影の準備が始まった頃、ロシアとウクライナの戦争が始まりました。そして、その戦争は今もまだ続き、僕らは僕らで「これからの日本はどうなっていくんだろう」という不安を抱えています。そういう時代に映画を作る。大正時代の軍人に“戦わない”という選択肢はなかったけれど、戦う映画が玩具のように見えてはならない。戦うということに苦悩する百合をどう描くか。撮影中も編集中もずっと自問自答を繰り返していました。

ラストの慎太の姿に、この時代の戦いに向けたひとつのメッセージを込めました。ぜひとも劇場のできるだけ大きなスクリーンで迫力のある音響とともに、この作品を受け止めていただけたらうれしいです。

<PROFILE>
監督:行定 勲

2002年『GO』(01)で、第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、脚光を浴びる。2004年『世界の中心で、愛をさけぶ』が、興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象に。2018年『リバーズ・エッジ』が、第68回ベルリン国際映画祭にて国際批評家連盟賞を受賞。その他にも、『北の零年』(05)、『今度は愛妻家』(09)、『真夜中の五分前』(14)、『ナラタージュ』(17)、『窮鼠はチーズの夢を見る』(20)等を手掛ける。情感あふれる耽美な映像と、重層的な人間模様が織り成す行定監督作品は、国内外で高く評価され、観客の心を揺さぶり続けている。

『リボルバー・リリー』2023年8月11日(金)全国公開

画像: 映画『リボルバー・リリー』予告 / 8月11日 youtu.be

映画『リボルバー・リリー』予告 / 8月11日

youtu.be

<STORY>
小曾根百合は旧知の人物が一家惨殺事件の犯人と書かれた新聞記事を見て、現場に向かう。帰りの列車の中で陸軍から追われている少年を助けると、彼は一家惨殺事件で唯一生き残り、父親から「小曾根百合を頼れ」といたことを知る。少年はなぜ陸軍から追われているのか。彼の父親はなぜ自分を頼るようにいったのか。状況が見えない中、2人は行動を共にし、巨大な陰謀の渦に吞み込まれていく。命を賭した戦いの果てに2人を待ち受ける宿命とは…。

<STAFF&CAST>
監督:行定 勲
原作:長浦 京『リボルバー・リリー』(講談社文庫)
出演:綾瀬はるか、長谷川博己、羽村仁成(Go!Go!kids/ジャニーズJr.)/シシド・カフカ、古川琴音、清水尋也/ジェシー(SixTONES)、佐藤二朗、 吹越 満、 内田朝陽 、板尾創路、橋爪 功/石橋蓮司/阿部サダヲ、野村萬斎、豊川悦司

配給:東映
©2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ

公式サイト:https://revolver-lily.com/

This article is a sponsored article by
''.