名優のキャリアを中心にそのキャリアを振り返る連載の第28回。今回取り上げるのは、鬼才デヴィッド・クローネンバーグの最新作『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』の公開が控えるヴィゴ・モーテンセン。ユニークなキャリアと盟友との出会いにフォーカスします。(文・平沢薫/デジタル編集・スクリーン編集部)
カバー画像:Photo by Rich Polk/Getty Images for IMDb

俳優としてアーティストとして自らのやりたいことをとことん追求

新作『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』でも、何かを胸に秘めている寡黙な男を演じたヴィゴ・モーテンセン。彼に一癖ある人物の役が似合うのは、彼のユニークな生い立ちが関係しているのかもしれない。

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1958年10月20日、米NY生まれ。デンマーク人の父とアメリカ人の母はノルウェーで出会い、ヴィゴが生まれた後、南米ベネズエラとアルゼンチンで牧場と養鶏場を営み、彼は7歳からアルゼンチンの寄宿舎学校で学ぶ。11歳で両親が離婚し、母はヴィゴと弟2人と共にNYに帰るが、幼少時の南米体験は影響を与えているだろう。

また、彼は最初から俳優志望だったわけではなく、NYで高校と大学を卒業した後はデンマークやロンドンに行き、湾岸労働者や花屋の店員をしながら、詩や短編小説を書いていた。この頃、映画館に行くようになり、映画に魅了されていったという。

そして1982年、恋に落ちた彼はその女性を追ってNYに戻るが、恋愛も創作活動もうまくいかず、新たに挑戦したのが俳優業だった。俳優学校に通い、舞台出演を経て1984年にTV映画「ジョージ・ワシントン」でTVに初出演。

映画に初めて出演した2作、ジョナサン・デミ監督の『スイング・シフト』(1984、日本未公開)とウディ・アレン監督『カイロの紫のバラ』(1985)では、出演シーンがカットされてしまったが、ハリソン・フォード主演の『刑事ジョン・ブック/目撃者』(1985)で、映画デビューを果たした。

画像: デビュー作はハリソン・フォード主演の 『刑事ジョン・ブック/目撃者』(1985) Photo by Getty Images

デビュー作はハリソン・フォード主演の 『刑事ジョン・ブック/目撃者』(1985)

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その後も、ホラー映画『プリズン』(1987)で主演を務め、英国の小説家で画家のフィリップ・リドリーの映画初監督作『柔らかい殻』(1990)など出演作は続き、ショーン・ペンが脚本も書いた初監督作『インディアン・ランナー』(1991)で、どこにも落ち着くことができない人間の心情を繊細に演じて注目を集めるが、ヒットには至らず。

ブライアン・デ・パルマ監督『カリートの道』(1993)、トニー・スコット監督『クリムゾン・タイド』(1995)などへの脇役出演が続く。

しかし、『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)のアラゴルン役で大ブレイク。その後は人気俳優の道を爆進し、演技力も評価され、アカデミー賞主演男優賞に『イースタン・プロミス』(2007)、『はじまりへの旅』(2016)、『グリーンブック』(2018)と3度ノミネートされている。

そうした俳優業と並行して、詩や音楽、絵画、写真などを創作し続けているところが、モーテンセンのユニークなところ。詩集は1993年の「Ten Last Night」から、音楽は1994年の「Donʼt Tell Me What to Do」から、これまで多数の作品を発表。

2002年には、アーサー王伝説の円卓の騎士から名前をとった出版社、パーシヴァル・プレスを設立し、彼の作品や、彼が好きなアーティストの作品をリリースしている。

ちなみに私生活では、1987年7月に映画『T.V.サルベーション』(1987)で共演したパンクバンド、Xのエクシーン・セルベンカと結婚、翌年には息子ヘンリーが生まれるが、1992年に別居し1998年に正式離婚。

息子は共同親権だがモーテンセンと一緒に暮らす。彼は「指輪物語」が好きで父親に『ロード~』への出演を勧めたのは有名な話。

また、2008年からは『アラトリステ』(2006)で共演したスペイン人女優アリアドナ・ヒルと交際。『グリーンブック』で主演男優賞にノミネートされた2019年のアカデミー賞授賞式会場には、彼女と息子のヘンリーと一緒に出席している。

画像: 第91回アカデミー賞授賞式には交際相手の アリアドナ・ヒル、息子ヘンリーと参加 Photo by Getty Images

第91回アカデミー賞授賞式には交際相手の アリアドナ・ヒル、息子ヘンリーと参加

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一方、映画では、監督業にも進出。自分と父親の関係を下敷きにした初監督作『フォーリング 50年間の想い出』(2020)では、監督と出演に加えて、脚本・音楽・製作も担当。

監督第2作『The Dead Donʼt Hurt(原題)』もポストプロダクション中。この作品でも脚本・出演も兼任し、1860年代を舞台に、ヴィッキー・クリープス演じるカナダ人女性と、モーテンセン扮するデンマーク移民の恋を描く。

俳優業の新作も続々。彼が『約束の地』で組んだアルゼンチン監督リサンドロ・アレンソと再タッグする『Eureka(原題)』は撮影済み。

続いて『人生の特等席』のロバート・ロレンツ監督が実在したテロリスト、通称ユナボマーの捜査官を描く『Unabomb(原題)』に主演、『ザ・プロフェッショナル』のデヴィッド・マメット監督がJFK暗殺事件を描く『Assassination(原題)』ではアル・パチーノ、ジョン・トラヴォルタと共演予定。

モーテンセンは、今後も映画とアートの双方で、自分のやりたいものを続けていくに違いない。

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