<監督&脚本&原案&製作>
ウェス・アンダーソン
ウェス・アンダーソン
1969年、アメリカ、テキサス州ヒューストン生まれ。オーウェンとルークのウィルソン兄弟が主演した『アンソニーのハッピー・モーテル』(1996)で長編映画監督デビューし、『アステロイド・シティ』までに10の長編を手掛けた。
今や独自の世界観を確立した唯一無二の映像作家として、世界中で愛される存在。
役者がなぜ芝居をし、監督がなぜ作品を作るのか、その理由がわかった気がします
──本作の発想はどこからきましたか?
映画を作るときや脚本を書くときはだいたい複数のアイデアがベースになります。2、3程度かな。『アステロイド・シティ』はロマン・コッポラと共に作り上げました。
ジェイソン・シュワルツマンを主役に、彼が今までやったことのない役を創ってみたかったんです。書き始めたとき、キャラクターがどういう状況にあるのか、ふんわりとしたイメージがありました。
それと、1950年代のニューヨークの舞台劇の世界を描きたかった。ブロードウェイの黄金期で、アクターズ・スタジオっぽいものを創ってみたかったのです。
そして上演される舞台劇の物語にしようと思いました。もともとは舞台劇の設定で、自動販売機を背景にしたものを作りたいと思っていましたが、世界が小さすぎる気がしました。
それで舞台を砂漠にすることにしました。そこからモノクロのニューヨークの舞台劇と、カラーでシネスコの西部劇っぽいストーリーになっていったのです。それで、キャストが舞台劇に出演する役者を演じるという発想が生まれました。
──パンデミックにもインスパイアされたそうですね。
脚本はまさにパンデミック中に書いたものですし、実際にシャットダウンを体験していなければ、ストーリーに含まれることもなかったでしょう。
撮影もパンデミック中だったのですが、これが作品とうまい具合にマッチングしました。今回は広大なセットだったのですが、クローズドセットだったので、少人数で(緊密に)作業を進めることができました。
パンデミックが功を奏したとは言いたくないけれど、パンデミックのプロトコルをうまく活用できたのは確かです。
──この作品では舞台演劇を取り入れています。
例えば『赤い靴』で主人公が「踊ることとは?」と尋ねられ、これに対して、「生きることは?」と質問で返すくだりがあります。同様に物語を語ることも、舞台を上演することも、とても自然なことなのではないかと思うんです。
ただ、私の場合、舞台はリハを始める前から劇場をブッキングしないといけないし、オープニングの日が決まっているし、そういうプレッシャーは嫌いなので、舞台演出は手がけません。私は編集室でいろいろいじりたい方なんです。
今回の撮影を通じて、私は自分の役者愛を再確認しました。この映画は、どのキャストも「役を演じる役者」を演じているはずなんです。
私は自分の作品を見るのがあまり好きではないのですが、この作品をキャストと一緒に見ることができたのは良かったです。
役者がなぜ芝居をし、監督がなぜ作品を作るのか、その理由がわかった気がします。
これは自分のデビュー作品から感じていることで、初めて現場に立ってみたとき、「役者はどこか我々とは違う存在だ」と、新鮮な驚きがありました。
役者同士は不思議な絆で結ばれています。何せ、スクリーンに映し出されるのは自分の顔で、そして一挙一動を観客に観察されることになる。普通の人が経験しないようなことを経験するから、それが役者特有の連帯感に繋がるのでしょう。私は役者のそういうところが好きです。
<オーギー・スティーンベック/ジョーンズ・ホール役>
ジェイソン・シュワルツマン
ジェイソン・シュワルツマン
1980年、アメリカ生まれ。ウェスとの初タッグは、映画&主演デビューの『天才マックスの世界』(1998)。以降、脚本にも携わった『ダージリン急行』(2007)などウェス作品の常連に。
繰り返しタッグを組んでさまざまなことを共有し、冒険できるのは楽しいものです
──いつからこの企画に参加されているのですか?
2019年の7月11日のことです。記念日で妻とドライブしていたときにウェスから電話がかかってきて、
「ちょっとアイデアが浮かんできた。今それをロマンと一緒に手がけていて、内容に関してはまだあまり言えないのだけど、出演してもらうことになると思う」
とウェスに言われたんです。嬉しい言葉ですよね。
──ウェスとは何度も組んでますね。彼との仕事のどういうところに最も価値を置いていますか?
稀有な関係性だと思っています。昔から関係性は変わらないけれど。はじめて会ったとき、音楽の話ばかりしていました。趣味を共有し合うような関係ですね。
愛する友とこうやって繰り返しタッグを組んでさまざまなことを共有し、冒険できるのは楽しいものです。ハロウィーンのように、カゴからキャンディをザザーっと出して、好きなものをいっこずつ拾い上げていく感覚。
今回も脚本を読んだときに「なるほど、宇宙人が登場するのか」と思いました。こうやって僕は友人の趣味を常に追っかけているんです。
<ミッジ・キャンベル/メルセデス・フォード役>
スカーレット・ヨハンソン
スカーレット・ヨハンソン
1984年、アメリカ生まれ。第92回アカデミー賞で『マリッジ・ストーリー』(2019)『ジョジョ・ラビット』(2019)の両作品でオスカー候補に。ウェス作品は『犬ヶ島』(2018)以来の参加となる。
お互いの芝居をサポートする姿勢がとてもいいんです
──役の参考にした往年の女優はいましたか?
ミッジ・キャンベルの人物像はベティ・デイヴィスを参考にしています。監督とは往年のハリウッドスターについてあれこれ話し合いました。
彼女がどんな人物で、どんなキャリアを歩んできたのか、アクターズ・スタジオ出身なのか、どんな声のする女優かなどとあれこれ考察しました。
ベティはとてもいいキャリアを歩んできた女優ですし、自分を肯定しているその存在感がとても良い。声も環太平洋アクセントなのが良いんです。
──ウェス・アンダーソン監督の現場の特徴を一つ挙げるなら?
やっぱりみんなの仲間意識だと思います。運命共同体だという意識があるからなのか、お互いの芝居をサポートする姿勢がとてもいいんです。だから一人一人の演技が引き立つ。みんなで交響曲をつくったような感じです。
待ち時間の多い撮影現場は退屈することがあって「こんなところで時間を潰している場合かしら?」と人生を振り返ってしまうことがありますが、ウェスの現場はとても生き生きしているから、そんな疑問が頭をよぎることもないんです。
<スタンリー・ザック役>
トム・ハンクス
トム・ハンクス
1956年、アメリカ生まれ。『フィラデルフィア』(1993)、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)でアカデミー主演男優賞に輝いた。ウェス・アンダーソン監督作品への出演は本作が初。
ウェスの映画で出演したいと思わなかった作品は一つもないんです
──ウェスとは昔から組みたいと思っていました?
ウェスに初めて会ったのがおよそ15年前。エドワード・ノートンから「ウェスがローマのレストランでディナーをするらしいから一緒に行こう」と声をかけられて行きました。それでウェスに「頼むから、君の作品の常連組に入りたい」などと言ったかな?
それ以来何度か会っているのだけど、今回はウェスから1通のメールがきたのがきっかけだったんです。「常連組に入りますか?」と書いてあったので、私は「はい、もちろん」と返信しました。
面白いことに、ウェスはアニマティック※を送ってきたのだけど、それを見ると「自分などまるで役に立ちそうにない」と思ってしまうんです。声が全部ウェスの声だから。
※アニマティック 映画製作の準備段階において、絵コンテに相当する各カットの画面構成などを、簡単なコンピューターグラフィックスで映像化したもの。
(アニマティックは)まるで「美女と野獣」だった。噂に違わぬ出来でしたね。私はウェスの映画で出演したいと思わなかった作品は一つもないんです。
だから今回は出演が叶って嬉しかったですよ。「引退したロナルド・レーガンのような人物に仕立て上げたい」とウェスに言われて「それならできる。任せなさい」と返しました。
『アステロイド・シティ』関連記事はこちら
『アステロイド・シティ』
公開中
2023/アメリカ/1時間44分/配給:パルコ
監督:ウェス・アンダーソン
出演:ジェイソン・シュワルツマン、 スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、ジェフリー・ライト、ティルダ・スウィントン、ブライアン・クランストン、エドワード・ノートン、エイドリアン・ブロディ、リーヴ・シュレイバー、ホープ・デイヴィス、スティーヴン・パーク、ルパート・フレンド、マヤ・ホーク、スティーヴ・カレル、マット・ディロン、ホン・チャウ、ウィレム・デフォー、マーゴット・ロビー、トニー・レヴォロリ、ジェイク・ライアン、ジェフ・ゴールドブラム
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