気まずい関係になっていた夫と向き合うことを避け、別の男性との逢瀬を重ねていた綿子。ある事故をきっかけに自らを見つめ直し、夫と向き合い、前に進み始める。映画『ほつれる』は演劇界で注目を集める気鋭の演出家である加藤拓也が映画監督デビュー作『わたし達はおとな』に続いてオリジナル脚本で挑んだ長編第2作目。主人公・綿子を門脇麦、夫・文則を田村健太郎、綿子の心の支えとなる木村を染谷将太、綿子の親友・英梨を黒木華が演じている。公開を機に加藤拓也監督にインタビューを敢行。着想のきっかけや作品に対する思いを語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)
映画は“会話でないところでいかに気持ちを表現していくか”が大事
──物語の着想からお聞かせください。
自分の劇団公演に『綿子はもつれる』(2023年5月17日 (水)〜5月28日 (日) 東京芸術劇場シアターイースト)という作品がありました。“もつれる”ということを定義した上で人間関係に置き換え、戯曲にしたものです。それをベースにして映画を作りたいと思いました。ただ、テーマは戯曲のものをベースにしていますが、基本的には別物として書いています。映画で黒木華さんが演じている役は戯曲には出てきません。戯曲が先にありましたが、舞台の上演よりも先に映画を撮っています。
──冒頭の綿子と文則の「そろそろ布団、ぶ厚いのに替えてもいいかな」、「こっちに持ってきておく」というセリフのやり取りだけで、夫婦の状況が察せられます。
思っていること、やっていること、言っていることが全部バラバラである人間をどうやって切り取っていくか、演劇は基本的にセリフで構成しますが、映画は“会話でないところでいかに気持ちを表現していくか”と性格が真逆です。冒頭でそれが伝わったのだというのであればよかったです。
──最近は長尺の作品が多いのですが、本作は尺が短いですね。
余分なことは入れず、必要なことだけにしようと思っていました。