気まずい関係になっていた夫と向き合うことを避け、別の男性との逢瀬を重ねていた綿子。ある事故をきっかけに自らを見つめ直し、夫と向き合い、前に進み始める。映画『ほつれる』は演劇界で注目を集める気鋭の演出家である加藤拓也が映画監督デビュー作『わたし達はおとな』に続いてオリジナル脚本で挑んだ長編第2作目。主人公・綿子を門脇麦、夫・文則を田村健太郎、綿子の心の支えとなる木村を染谷将太、綿子の親友・英梨を黒木華が演じている。公開を機に加藤拓也監督にインタビューを敢行。着想のきっかけや作品に対する思いを語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

喋っていないときの情報量が多い門脇麦

──キャスティングはどのタイミングで、どのように決めたのでしょうか。

脚本が出来上がってから、プロデューサーの方々と相談しながら決めました。

門脇麦さんは喋っていないときの情報量が多い。黙っているときの佇まいや雰囲気、表情が魅力でした。それが人によってはさまざまなニュアンスに取れるところもいい。染谷将太さんも同じです。黙っている時の情報みたいなものは、演劇とはまた別の力です。それを信じさせてくれる俳優です。

画像: 綿子(門脇麦)

綿子(門脇麦)

画像: 木村(染谷将太)

木村(染谷将太)

田村健太郎さんは舞台『綿子はもつれる』にも出てもらっています。映画も演劇同様にリハーサルを繰り返して作っていくので、作り方を知っている人がいるのといないのでは座組の空気も違う。リハーサルを嫌う人も居ますが、なぜそれだけのリハーサルが必要なのか理由が伝染すると良いと思います。

画像: 文則(田村健太郎)

文則(田村健太郎)

画像: 英梨(黒木華)

英梨(黒木華)

黒木華さんも舞台を一緒にやったことがあります。表現の引き出しの多い素晴らしい俳優だと思います。

──キャラクターはリハーサルでどのように作っていくのでしょうか。

人間を一面的なキャラクターで仕切らないということが第一のルールとしてあります。場面、場面で、そのキャラクターが何を思っているのかを話し合い、トライして、最終的に“こういう人間だったね”というところに辿り着きます。

──喋っている人の後ろ姿を手前に捉え、その向こう側に綿子を映すことが多かった気がします。

喋っている人の気持ちよりも、それを聞いて、綿子がどういう気持ちになったのかが大事だったからです。

──長回しも多かったのですが、綿子が山梨で夜、旅館に泊まることにしたシーンは車で駐車場に入ってきた綿子を旅館の中から引きで捉え、そのまま、綿子が旅館に入ってくるまでを長回しにしていたのが印象に残りました。

ロケハンで偶然、それができるところを見つけたので、「ここは中から一発で撮りたい」とカメラマンに伝えました。どこから撮っているのかわからない感じから、綿子が旅館に入ってきたことで、中から撮っていたことが分かるようにしています。そうやって綿子の内側と外側を画に作り出しました。

──綿子が木村の妻と対峙するシーン、最初はかなり引き気味で 木村の妻の後ろから2 人を捉えていましたが、気がついたらかなり寄り気味になっていました。秀逸なカメラワークですね。

木村の妻は綿子と夫の間に関係があったことを知り、会って話をすることにしたのだけれど、悲しい姿を見せたくないはず。ここは向き合って座っているけれど、気持ちは向き合っていない2人の画を撮りたかったので、このようにしました。

画像: 喋っていないときの情報量が多い門脇麦

僕は“気がついたら…”といったことが好きでよくやっていますが、今回はカメラマンが特によくやってくれたと思っています。

──本作を通じて伝えたかったのはどのようなことでしょうか。

一見、非合理に見える登場人物に合理性を求めるのではなく、何故そのような行動を取っているのかということに思いを寄せていくのが映画や演劇です。そのようなつもりでご覧いただければと思います。

<PROFILE>
加藤拓也監督

1993 年12 月 26 日(29 歳)生まれ。大阪府出身。脚本家/演出家/監督。「劇団た組」主宰。17歳の時からラジオ、テレビ番組の構成作家を始める。18 歳の時にイタリアへ渡り、映像演出を学ぶ。帰国後、「劇団た組」を立ち上げ、主宰・全作品の脚本・演出を担当。2018 年フジテレビ『平成物語』でドラマ初脚本を手がけ、第 7 回市川森一脚本賞にノミネート。2019 年日本テレビ『俺のスカート、どこ行った?』で初のゴールデン帯ドラマ初脚本を手がける。2021 年 NHK『よるドラ きれいのくに』で第 10 回市川森一脚本賞を受賞。映画『わたし達はおとな』で長編映画監督・脚本デビューを果たす。2022 年舞台「ザ・ウェルキン」「もはやしずか」の 2 作品で第 30 回読売演劇大賞 演出家賞部門の優秀賞を受賞。同年、舞台「ドードーが落下する」で第67 回岸田國士戯曲賞を受賞。

『ほつれる』9月8日(金)、新宿ピカデリーほか全国公開

画像: 本予告【9/8(金)公開】主演:門脇麦×監督:加藤拓也最新作『ほつれる』 www.youtube.com

本予告【9/8(金)公開】主演:門脇麦×監督:加藤拓也最新作『ほつれる』

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<STORY>
夫・文則との関係が冷め切っていた綿子は友人の紹介で知り合った木村と頻繁に会うようになっていた。あるとき木村は綿子の目の前で交通事故に遭い、帰らぬ人となってしまう。心の支えとなっていた木村の死を受け入れることができない綿子は木村との思い出の地を辿りながら、自分自身と向き合っていく。

<STAFF&CAST>
出演:門脇麦、田村健太郎、染谷将太、黒木華、古舘寛治、安藤聖、佐藤ケイ、金子岳憲、秋元龍太朗、安川まり
監督・脚本:加藤拓也
2023年/日本=フランス/カラー/DCP/5.1 ch/1:1.37/84分
配給:ビターズ・エンド

© 2023「ほつれる」製作委員会 & COMME DES CINÉMAS
公式サイト:https://bitters.co.jp/hotsureru/

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