「長回しで撮られた集会所に集まった人々が吸い込まれるように入っていった森の中のシーンは、とても感動しました」
1980年代のチャウシェスク独裁政権下のおぞましい社会状況を描き、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した『4ヶ月、3週と2日』(07)に続き、『汚れなき祈り』(12)ではカンヌ国際映画祭の女優賞と脚本賞を受賞、『エリザのために』(16)では同・監督賞に輝いたルーマニアを代表する俊英クリスティアン・ムンジウ監督。6年ぶりに完成した待望の最新作『ヨーロッパ新世紀』は、ルーマニア中部トランシルヴァニア地方の小さな村の工場に、アジアから出稼ぎ労働者が来たことを発端に、住人たちの間で深刻な紛争が巻き起こる戦慄の社会派サスペンス。幾多の火種を抱えたヨーロッパの不穏な新世紀、そして分断された世界の今をあぶり出し、2022年カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品の他、数々の映画祭で絶賛を博した。今年4月にアメリカで公開され、大手映画批評サイトのロッテントマトでは96%フレッシュ、オーディエンススコア99%という高評価を得ている(2023年10/3現在)。
このたび、クリスティアン・ムンジウ監督より日本の観客に向けたメッセージ映像が到着した。あわせて、俳優イーサン・ホークがムンジウ監督とオンライン対談を行った際の『ヨーロッパ新世紀』を絶賛するコメントを公開。「アメリカではティーンエイジャー向けの娯楽作品が多いなかで、本作は大人向けで成熟した作品です。あなたのような偉大なフィルムメイカーと映画について話すことができるのは光栄です」とムンジウ監督に称賛を送るホークは、『ヨーロッパ新世紀』を鑑賞し「とても美しく、素晴らしい映画」と絶賛している。
とても美しく、素晴らしい映画だ。
途方もなく哀しく、この上ない瞬間が訪れる。少年が初めて言葉を発したシーンに、私はとても感動しました。この映画には兆候のようなものを感じる瞬間がたくさんあります。驚くべきは、超リアリズムと精神世界の融合です。その融合は明らかに映画のラストに活きてくる。少年は何を見たのか、それは何なのか、そして私たちは何を見るのか。この素晴らしい映画をありがとう。
——イーサン・ホーク(俳優)
ムンジウ監督から到着したメッセージ映像では、「ルーマニアのトランシルヴァニア地方の村で実際に起きた事件が、映画を創るきっかけになった」と明かされた。『数年前にルーマニア、トランシルヴァニア地方の小さな村に海外から労働者がやってきたことで起きた事件がありました。その事件がこの映画を創るきっかけとなりました。この映画は人と人とのつながり、民主主義、偽善、真実、寛容、他者を思いやること、そして何よりも大事なこととして、人間とは、つまり自分は何者なのかということを描いています。日本、ルーマニア、アメリカどこに住んでいても他者との関係は益々複雑化しています。この映画に興味をもってもらえたら嬉しいです。もし質問や感想があればインスタグラムにコメント下さい。お答えします。ありがとう』と日本の観客にむけてメッセージと寄せた。
なお、観客からの質問にインスタグラムで直接回答するのを楽しみにしているというムンジウ監督は、今回残念ながら来日が叶わなかったが、10月14日(土)の公開初日にユーロスペースでは、監督の舞台挨拶と観客とのQ&Aをオンライン登壇で行うことが予定されている。
【STORY】 鉱山の閉鎖によって、経済的に落ち込んだトランシルヴァニア地方の村。出稼ぎ先のドイツで暴力沙汰を起こした粗野な男マティアスが、この土地に舞い戻ってくる。しかし疎遠だった妻との関係は冷めきっており、森でのあることをきっかけに口がきけなくなった幼い息子、病気で衰弱した高齢の父への接し方にも迷うマティアスは、元恋人のシーラに心の安らぎを求める。ところがシーラが責任者を務める地元のパン工場が、スリランカからの外国人労働者を迎え入れたことをきっかけに、よそ者を異端視した村人たちとの間に不穏な空気が流れ出す。やがて、そのささいな諍いは村全体を揺るがす激しい対立へと発展し、マティアスやシーラの人生をも一変させていくのだった…。
監督:脚本:クリスティアン・ムンジウ 出演:マリン・グリゴーレ、エディット・スターテ、マクリーナ・バルラデアヌ他 原題:R.M.N. 2022 年/ルーマニア・フランス・ベルギー/カラー/シネスコ/127 分/5.1ch 日本語字幕:関美冬 後援:在日ルーマニア大使館 配給:活弁シネマ倶楽部/インターフィルム
©Mobra Films Why Not Productions FilmGate Films Film I Vest Fr ance 3 Cinema 2022