主人公は自分の分身みたいな存在
──監督はイメージ画を描き溜めて作っていくと聞きました。詳しくお聞かせください。
まずは湧き出たイメージを描き溜めておきます。その中からいくつか選んでパズルのピースのように繋げていくのですが、そのときはまだストーリーはわかりません。子どもが遊ぶように組み立てていきます。むしろ、わからないことが楽しい感じ。朝、まだ何も考えていないようなときに自由な発想で柔軟に組み立てていくのですが、とてもデリケートで細かい作業です。
──テーマは最初から決めているのでしょうか。
私は絵の状態で思いを伝えるタイプなので、文章にしません。しかもイメージ画は全てがドラフト(下書き)なので、どんな形にも変わり得るし、作りながらどんどん変わっていきます。テーマも最初から決めているのではなく、イメージを組み立てている段階で見えてきます。ただ、一度見えてきても、途中で外してしまうこともあります。
例えば全部青い映画を作ろうと用意していたところ、途中で空がピンクで素敵だったのを見ると、ブルーを全部ピンクに変えてしまう。しかし、最後はワインレッドがいいんじゃないかと閃いたら、ラストだけはワインレッドにする。そういう感じで作っています。
──監督の作品は少年が主人公になることが多いですね。
映画を作る際に自分を突き動かすものは自分の内面にあるものです。それは経験がベースになっています。ですから主人公は自分の分身みたいな存在です。前作の主人公はまさに自分自身でした。それは映画を作っている人なら誰しも経験したことがあると思います。
──冒頭でクラエがブルーオと出会う前までのシーンはスピード感があってとてもサスペンスフルですね。演出ではどんなことを意識されましたか。
オープンニングは大事です。これからこの話はどうなっていくのだろうと人の心を掴まなくてはなりませんからね。この話は主人公が秘密エージェントなので、サスペンス的な演出にしました。
──思いを文字にされないとのこと。前作『父を探して』はセリフがありませんでしたが、今回はセリフがあります。セリフを書くのに苦労されましたか。
苦労とは思っていません。違う文化を持っている2人が出会い、最初は敵対意識を持っていたけれど、やがて協力し合うようになる。そのため会話が多くなりました。セリフは映画に導かれるように生まれてきました。
──前作はお一人で作られましたが、本作は助監督のヴィヴィアーニ・ギマランイスさんと一緒に主人公の2人を作り、サンドロ・クレウゾさんが「カマドドリのジョアン」を作ったとのこと。チームで作品を作ってみて、いかがでしたか。
前作と今回の作品では関わっている人数はそんなに変わりません。大作の場合は2〜300人体制になるでしょうけれど、前作が10人で作ったとしたら、本作は25人になったくらいの違いなので、チームが大きくなったとはあまり感じていません。ただ、この作品は技術的な部分がすごく細かくなり、仕事は俄然増えたので、負担は大きくなりました。
──具体的にはどのようなところでしょうか。
コンポジットの部分です。どのシーンもキャラクターがあって、背景がある。それを全部合わせた上で、効果として光が差し込む状況やそれによって発生する影をつけるのが大変でした。
──日本の観客に向けて、本作の見どころについて教えてください。
アニメーションの巨匠がたくさんいらっしゃる日本で作品を公開できることをとてもうれしく思っています。この作品では友情の強さを描いています。世界のあちこちで戦争が起こっている状況ですが、その中でも友情はきっと成り立つことをお伝えできればと思います。
<PROFILE>
アレ・アブレウ監督
1971年3月6日、サンパウロ生まれ。13歳のときにサンパウロ市内にあるMuseum of Image and Sound(MiS)のアニメーション教室に通い始める。そこで彼は、ルネ・ラルー監督の『ファンタスティック・プラネット』や『時の支配者』、漫画家・脚本家メビウスの『ブルーベリー』シリーズといった作品に出会い、大きな影響を受けた。「彼らは私にアニメーションの別の面を見せてくれました。彼らのおかげで、私は自分の人生で何をしたいのか、もはや迷うことはありませんでした」と話している。
1990年代、アブレウは2本の短編アニメーションを制作し、イラストや広告など多くのプロジェクトに携わった後、初の長編映画『Garoto Cósmico(宇宙の少年)』を制作した。2008年にブラジルで公開された青少年向けのSF映画で、すべての生活がプログラムされた世界に住む子どもが主人公だ。
1960年代から1970年代のラテンアメリカの音楽とそのプロテストソングを使い、南米大陸の激動の歴史のさまざまな時代をたどるアニメーション・ドキュメンタリー「Canto Latino」の準備中だった2006年、アブレウは自分のノートを開き、映画『父を探して(原題:少年と世界)』のきっかけとなった「少年」のキャラクターのスケッチを見つけたという。この作品は一人の少年の目を通して描く南米大陸の歴史と冒険の物語で、2014年アヌシー国際アニメーション映画祭最高賞クリスタル・アワード、2016年アニー賞長編インディペンデント作品賞を受賞し、彗星のごとく現れた新たな才能に世界が驚いた。2016年アカデミー賞長編アニメ賞に南米の長編アニメ作品として初ノミネートされた。
『ペルリンプスと秘密の森』2023年12月1日(金)公開
<STORY>
テクノロジーを駆使する太陽の王国のクラエと、自然との結びつきを大切にする月の王国ブルーオの二人の秘密エージェントは、巨人によってその存在を脅かされる魔法の森に派遣されている。クラエはオオカミにキツネのしっぽ、ブルーオはクマにライオンのしっぽ、ホタルの目を持つ不思議な姿をしている。二人は正反対の世界からやってきて、全く異なる文化を持ち、一世紀にわたって対立を続けていた。
二人が探しているのは、森を救うという「ペルリンプス」だ。光として森に入り込み、様々なエネルギーをもたらした。しかし巨人の支配が始まり、だれもがペルリンプスの存在を忘れてしまっていた。反発しながらもペルリンプスの手がかりを探して、二人は協力し合うことにする。
音と光に導かれ、たどり着いた場所にはカマドドリのジョアンという鳥の姿をした老人がいた。老人はかつて巨人だった時のことを二人に語り始める。そしてペルリンプスに呼ばれてこの森に帰ってきたことも…。
老人は家へ帰るよう二人を諭し、「出会いの場」へと導く。最初に出会った場所に戻り、ペルリンプスを探し続ける二人に、突然巨人のサイレンが鳴り響く。残された時間はもうない。大きな波が森を破壊し飲み込もうとしていた…。そして物語は思いがけない結末にたどり着く。そこに隠された現代への問いかけとは?
<STAFF&CAST>
監督・脚本:アレ・アブレウ
音楽:アンドレ・ホソイ
出演: ロレンゾ・タランテーリ、ジウリア・ベニッチ、ステーニオ・ガルシア、ホーザ・ホザー、ニウ・マルコンジス
配給:チャイルド・フィルム=ニューディアー
©️Buriti Filmes, 2022
公式サイト:https://child-film.com/perlimps/#modal