デートセラピストはアイドルのメタファー
──なぜ、主人公の仕事をデートセラピストにしたのでしょうか。
この作品はLDHのTHE RAMPAGEのファンあっての企画です。自分がこれまでに撮ってきた作品の延長線上でやるのは違う。ファンの人が見て楽しめるものにしたい。ではファンは彼らに何を求めているのか。大変な日常の中での束の間の喜びや癒しを欲しているはずです。
1人のお客を癒すデートセラピストと大勢のファンを癒すアーティスト。1対1と1対マスという違いはありますが、ある意味、デートセラピストはアイドルのメタファー。構造的には近いところがあると考えて、デートセラピストにしました。
ただ癒されたいのは女性だけではありません。レンタル彼氏や出張ホストの取材をしたところ、彼らにも癒しが必要であることを感じたので、そのことも描いています。
──ファンを喜ばせるということで、デートセラピストを依頼する女性3人の年齢を20代、30代、40代に設定されたのでしょうか。
THERAMPAGEのファンは10~40代で、それぞれの年代で特有の悩みがあると考えました。
安達祐実さんが演じた40代の宮地沙都子は高層マンションに住むセレブな妻。しかし夫の浮気に寂しさを感じています。穂志もえかさんが演じた30代の高校教師の稲本灯は母親との関係がうまくいっていません。夏子さんが演じた20代のmiyupoはフォロワー7万人の人気インスタグラマーですが、それは自分で作り上げた姿です。
社会が変わってきたといっても、女性の方が男性よりもジェンダーロールが重い。夫婦の間では妻の方が与えられている役割が多いだろうし、母親と娘の関係性は同性だからこそ拗れてしまう。インスタグラムで大勢に承認されていることに夢中になるのは男性よりも女性が多い気がします。自分が思っているだけで、実際にはあまり性差はないのかもしれませんけれどね。それを一晩だけ解きほぐすという構造がこの作品にはあっていると思ったのです。20代、30代、40代それぞれにおいて、どういう関係値がいいのかというところから作っていきました。
ただ、あまり器用な方ではないので、自分の周りで見聞きした話を活かすことが多く、今回も身近な方々の話から着想を得ています。特に灯の話は脚本を書いているときに大学時代の友人からお母さんが余命宣告された話を聞き、身につまされたことがきっかけになりました。普遍的な内容といいますか、誰にでも起こりうることではないかと思ったのです。
昔よりも子どもの数が少ないからでしょうか、最近は母子の関係が濃すぎるのもすごく感じます。その息苦しさはテーマに成り得ると思いました。
──夫が浮気をしていて孤独を感じている宮地沙都子の話は、年齢的にも性別的にも監督には遠いところにあり、書くのが難しかったのではありませんか。
この話に関してはモデルがいるというよりもよく聞く話です。自分の世代の女性は働いている人が多いのですが、親世代は専業主婦が多い。母親がこれを聞いたら凹むかもしれませんが、自分が持っている可能性や魅力、女性として優れている部分を抑圧されながら生きてきたのではないかと感じていました。しかし、1人の人間としてはそういった部分を引き出す場所があって然るべき。だからこそ、このテーマを性的な話には持っていかず、自分自身の魅力に気付く
話にしました。
──沙都子は刻の生活を体験することで活き活きとしていきましたね。
日本の中にも多様な価値観、空間が本来共存しています。しかし、今の社会は分断されていて、隣に他のものがあることに気づくことができない。それを気付かせてくれる存在としてデートセラピストという仕事がある。
沙都子は刻の生活を体験する中で自分の存在意義を感じます。それを沙都子が住んでいるだろうタワーマンションに対する刻が住んでいる安アパートというビジュアルの違いで象徴的に表現しました。