いくつもの顔を持ちたいと思うのは自然な欲求
──人気インスタグラマーのmiyupoは最初、わがままに見えましたが、話が進むにつれて、彼女は葛藤を乗り越え、今の自分をそのまま受け入れていきているのを感じました。
miyupoにとって「いいね」をもらうために高級ホテルのレストランで食事をしている風の写真を撮る自分と牛丼を食べている自分はまったく矛盾していません。むしろ、イチヤの方が古い価値観に囚われていて、本来なりたかった自分になれなかったことを隠して、仮面を被って生きている。
インスタグラムで承認欲求を満たしていくのは、映画などではネガティブな文脈で語られがちですが、この作品ではそこを批判的に描かない。原始時代ならいざ知らず、これだけ複雑になった社会の中でいくつもの顔を持ちたいと思うのは自然な欲求だと思うのです。
主婦がアバンチュールをする。母親と娘の葛藤を第三者が助ける。これらは古くからある話です。miyupoの話のように虚構の中にしかない真実は今、この時代だからこそ描ける。バレエをやっているmiyupoも素敵ですが、インスタグラムをやっているmiyupoも素敵。さまざまな顔があって当たり前。それこそがこの作品のいちばん大きなテーマです。
──miyupoのエピソードは男性側に変化が生じますね。
この話はmiyupoが変わらないでいることでイチヤが救われる話です。何かを続けていく悩みは僕の中にもあって、優れた同級生が映画界で活躍していく一方で、この歳になると辞めていく人も増えている。その辺も表現したいこととしてあったんです。“本当の自分”に囚われなくてもいいのかもしれませんね。
イチヤを演じたRIKU自身は男らしいパブリックイメージがありますが、僕は彼に不器用さや繊細さを感じたので、彼にこのエピソードを演じてもらいました。
──川村さん、吉野さんはいかがですか。
せっかく彼らの映画を撮るのなら、パブリックイメージとは違って、ちょっと意外くらいがいい。しかし、俳優だけをやっている人たちではないですから、まったく違うものに寄せていってもらうよりも、彼らの中にあるものを活かすことを考えました。とはいえ、僕は彼らのことを深く知っていたわけではありません。撮影までに話し合う時間をけっこう取っていただきました。
壱馬はチャーミングな部分がありますが、それを外に出したがりません。北人は弟キャラみたいな感じですが、信念があって、頭脳明晰なところがあります。そこで、映画ではその部分を引き出してみました。
──川村さん、RIKUさん、吉野さんと仕事をしてみて、俳優としての魅力や可能性を監督はどのように感じましたか。
壱馬はとても拘りが強く、スター性がある。シリアスな話もちゃんと演じられるので、俳優としてもっともっと幅を広げていってほしい。壱馬とはこの作品を作るときにLINEでいろいろやり取りして、一緒に作っていた感覚があります。「もう1本何か作りたいね」という話もしていて、次はシリアスな大人の物語を作りたいと思っています。
北人は王子様のようにユニセクシャルな感じに表現されがちですが、実際に一緒に仕事をしてみると、ものすごく器用でプロフェッショナル。役者としての可能性が大きい。男性的な魅力も強いので、次は彼のワイルドさを全面に出したものを作ってみたいと思っています。
RIKUは本当に写真を撮るのがうまいんですよ。ワイルドな見せ方をしているけれど、アーティスト肌なところがある。北人もそうだけれど、「パブリックイメージとは逆なのかな」という気がする。役者としては今回が初めてですが、とても誠実に取り組んでくれました。彼の繊細さを肯定できる物語にどんどん出ていくといいのではないかと思います。
──本作は東京国際映画祭のガラ・セレクション部門作品として上映されました。監督にとって東京国際映画祭で上映されるというのはどのような意味を持っていますか。
2014年に『愛の小さな歴史』、2015年に『走れ、絶望に追いつかれない速さで』を東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門で上映していただきました。自分にとって故郷のような映画祭に10年経っても変わらずにお声掛けいただけるのはとてもうれしいですね。
LDHと映画の文化の橋渡しが自分に与えられたミッションだと思うので、東京国際映画祭で一般の日本映画として、海外の方にも見ていただけたのは意味のあること。HIROさんも喜んでくださったと思います。
<PROFILE>
中川龍太郎
1990年1月29日生まれ、神奈川県出身。慶應義塾大学在学中に監督を務めた『愛の小さな歴史』(14)で東京国際映画祭スプラッシュ部門に入選。『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(15)も同部門にて上映され、2年連続入選を最年少で果たす。フランスの映画誌カイエ・デュ・シネマからその鋭い感性を絶賛される。『四月の永い夢』(17)は世界4大映画祭のひとつ、モスクワ国際映画祭コンペティション部門に選出され、国際映画批評家連盟賞とロシア映画批評家連盟特別表彰を受賞。『わたしは光をにぎっている』(19)がモスクワ国際映画祭特別招待。『静かな雨』(20)が釜山国際映画祭にてキム・ジソク賞にノミネートされ、東京フィルメックスにて観客賞を受賞。2022年、愛知県観光動画『風になって、遊ぼう。〜ジブリパークのある愛知〜』を制作。岸井ゆきの主演、浜辺美波出演の映画『やがて海へと届く』(22)がTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー。詩人としても活動し、2010年、やなせたかし主催「詩とファンタジー」年間優秀賞を最年少で受賞。
『MY (K)NIGHT マイ・ナイト』12月1日(金)劇場公開
<STORY>
刹那(川村壱馬)、イチヤ(RIKU)、刻(吉野北人)は、弘毅(村上淳)が経営する[MY KNIGHT]で働く“デートセラピスト”。女性たちを癒やし、救いを与えるKNIGHT、いわば“王子様”だ。今夜も、3人は横浜のとあるホテルでそれぞれの客と会う。一夜限りの夜を過ごした彼らは、どんな朝を迎えるのか…?
<STAFF&CAST>
監督・脚本:中川龍太郎
企画プロデュース:EXILE HIRO
コンセプトプロデューサー:小竹正人
主題歌:片隅 / THE RAMPAGE(rhythm zone)
音楽:YUKI KANESAKA
出演:川村壱馬、RIKU、吉野北人
安達祐実、穂志もえか、夏子、織田梨沙、中山求一郎、松本妃代、坂井真紀 / 村上淳
配給:松竹
©2023HI-AX「MY(K)NIGHT」
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/my-knight/