大家族に生まれ、家庭でも学校でも孤独に過ごす少女コット。母の出産が近づき、親戚夫婦に預けられた。そこで初めて触れた深い愛情にコットは自己を解放していく。映画『コット、はじまりの夏』はこれまでドキュメンタリー作品を中心に子どもの視点や家族の絆を誠実に映し出してきたコルム・バレード監督の初長編作品である。コットを演じたキャサリン・クリンチはアイルランドのアカデミー賞といわれるIFTA賞主演女優賞を史上最年少の12歳で獲得。『パラサイト 半地下の家族』などを世に送り出して来た新進気鋭のスタジオ、NEONが北米配給権を獲得した注目の作品だ。コルム監督のインタビューが届いたのでご紹介したい。(構成・文/ほりきみき)

小津作品と美学的な共通点がある

──この作品について、撮影監督のケイト・マカローとはどのような話をされましたか。

原作者のクレア・キーガンの文章には精密さだけでなく、豊かさや詩情があり、私はリスペクトを込めて、この小説を映画化しました。ケイトとはプリプロダクションの段階で、この作品の美学について時間を掛けて話し合いました。

キーガンは“自分の作品は完成しても未完成のままであり、作品を完成させるのは読者である”という考えを大切にしています。映画ではライティングによってのどかな雰囲気の中に緊張感や謎めいた印象を与え、特に子どもの視点を通して見ると脅威に思える部分も作りました。それによってキャラクターの関係性や背景について様々な解釈ができるようにしたのです。

コットはまだ視野が広がっておらず、自分の周囲の世界を理解していません。そんなコットの視点であることを表現するために、スクリーンサイズはスタンダード(1.37:1)にしました。

画像: 小津作品と美学的な共通点がある

──マーク・カズンズ監督が「なんとも優しい宝石のような映画。絶妙な小津風の映像と演技に感動し 最後に涙する」とコメントしていました。小津作品への意識のようなものもあったのでしょうか。また、制作にあたって影響を受けた作品、監督はいますか。

小津監督のことをはっきり意識していたわけではないのですが、美学的な共通点はあるとは思います。

参考にした映画作品もほとんどありませんが、強いて言えばスコットランドのリン・ラムジー監督の『Gasman』という短編映画ですね。あとはビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』といったところです。ケイトとは他の映画について話すよりも、気に入った写真をお互いに見せ合い、画のイメージを共有しました。

また、自分がコットの年齢のときに世界をどのように感じていたのか、その頃の感情がどのように続いていったのか、それが自分をどう変えたのかということも意識していました。

──本作を通じて伝えたかった思いについてお聞かせください。

この物語は成長したコットがアイリンとショーンと過ごした時間を振り返っているのではないかと思っています。悲しみと希望は相反するもののようですが、共存しうるもの。コットは2人から「一人の人間」として認められ、その実感によって自分自身を大切にし、新しい生き方を信じることができたということを伝えられればと思います。

──これからご覧になる方にメッセージをお願いします。

ご覧になった方がコットに共感してくれることを願っています。それは若い頃のご自身を形成してくれた人たちとの記憶に根ざしているものなのです。

<PROFILE>
コルム・バレード
1981年アイルランド・ダブリン生まれ。

アイルランド語と英語のバイリンガルとして育つ。ダブリン工科大学で映画を学んだ後、初の短編映画で12歳の少年が主人公の半自伝的作品『Mac an Athar(父の息子)』で数々の賞に輝く。長編ドキュメンタリー『Lorg na gCos(Finding the Footprints)』(2012)でイギリスのフォーカル・インターナショナル・アワードほか受賞。2012年には公私ともにパートナーである本作のプロデューサー、クリオナ・ニ・クルーリーと制作会社Inscéalを設立。長編映画デビュー作となる本作では、世界中の映画賞を席巻し、監督自身も各国で14の賞を受賞、33ノミネートの快挙を果たした。

『コット、はじまりの夏』2024年1月26日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開

画像: 映画『コット、はじまりの夏』30秒予告【夏よ終わらないで編】2024年1月26日(金)公開 youtu.be

映画『コット、はじまりの夏』30秒予告【夏よ終わらないで編】2024年1月26日(金)公開

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<STORY>
1981年、アイルランドの田舎町。
大家族の中でひとり静かに暮らす9歳の少女コットは、赤ちゃんが生まれるまでの夏休みを遠い親戚夫婦のキンセラ家のもとで過ごすことに。寡黙なコットを優しく迎え入れるアイリンに髪を梳かしてもらったり、口下手で不器用ながら妻・アイリンを気遣うショーンと子牛の世話を手伝ったり、2人の温かな愛情をたっぷりと受け、一つひとつの生活を丁寧に過ごしていくうち、はじめは戸惑っていたコットの心境にも変化が訪れる。緑豊かな農場での暮らしに、今まで経験したことのなかった生きる喜びに包まれ、自分の居場所を見出すコット。いつしか本当の家族のようにかけがえのない時間を3人で重ねていく―。

<STAFF&CAST>
監督・脚本:コルム・バレード
原作:クレア・キーガン「Foster」
撮影:ケイト・マッカラ
音楽:スティーブン・レニックス
出演:キャサリン・クリンチ、キャリー・クロウリー、アンドリュー・ベネット、マイケル・パトリック
2022年/アイルランド/アイルランド語、英語/カラー/スタンダード/5.1ch/95分/字幕:北村広子/後援:駐日アイルランド大使館/英題:「The Quiet Girl」
配給:フラッグ
© Insceal 2022

公式サイト:https://caitmovie.jp

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