橋本愛と主人公は根幹のところで共通するものがある
──橋本さんは黒髪の印象が強いので、冒頭の金髪に驚きました。なぜ沙苗を橋本さんにお願いしたのでしょうか。
橋本さんがこれまでに出演された作品を拝見して、素晴らしい役者さんだと思っていましたし、今回お願いした一番の理由は橋本さんが様々な媒体に書かれたり、発せられたりしている言葉の中にご自身が信じているものがしっかりあり、それは何があってもぶれないように感じたことです。
沙苗は自身の隼人への愛をずっと信じ、守り続けています。信じているもののベクトルは違えども、根幹のところに橋本さんと沙苗に共通するものを感じました。それで企画が立ち上がってすぐ橋本さんにお願いしたのです。実際にお会いしてみて、その思いを強くしました。
──早い段階で決まったことで、沙苗を橋本さんに寄せた部分はあるのでしょうか。
橋本さんに寄せるというよりも、沙苗と橋本さんを信じて書き続けました。沙苗のスタンスさえ変わらなければ、橋本さんは沙苗をしっかり演じてくれると思ったのです。
橋本さんも脚本を読んで、沙苗のことが自分の中で腑に落ちたのか、「沙苗のことをしっかり守っていきたい」とおっしゃってくださり、うれしかったです。
──現場での橋本さんはいかがでしたか。
シーンごとの動線は橋本さんに伝えましたが、沙苗の感情に関する話はほとんどしませんでした。撮影後に橋本さんから言われたのですが、この作品では僕に沙苗についての質問はせず、あえて自分で沙苗を組み立てていこうとしたそうです。本読みをしっかりやっていたので、健太役の仲野太賀さんや足立役の木竜麻生さんの言葉を聞きながら作っていった部分もあったのでしょう。そういうところが沙苗という人物に通じるし、だからこそ僕は橋本さんにお願いしたかったんだと改めて思いました。
──健太を仲野太賀さんにお願いしたのはどうしてでしょうか。
健太は沙苗や足立と関わっていく中で弱さが露呈していく。この作品の中でいちばん人間らしい人物と言えます。自分が持っている弱さを演技の中でしっかり出してくださる役者さんにお願いしたい。太賀さんは演技に対してそういった向き合い方をされていると思っていたので、お願いしました。
──仲野さんとは役についての話をされたのでしょうか。
シーンごとにたくさん話をしましたが、僕が考えている健太と太賀さんが思っている健太はちょっと違う観点で捉えていることがある。そんなときにお互いが考える健太って何なんだろうという話をみっちりやったのですが、そのことが健太に対するお互いの理解を深めていきました。それは映画制作においてとてもアクティブな意味を持ったと思っています。
──その話し合いによって、現場で健太が変わったりしたのでしょうか。
僕の中では健太はもう少し暗い設定でしたが、太賀さんは沙苗との出会いのところを僕が思っていたよりも明るく、小さいことは気にしないキャラクターとして演じてくれました。それはその後も続いていくのですが、そのように演じてくれたおかげで沙苗がもっと健太と居やすくなったと思っています。
──お見合いのシーンですね。仲野さんのロブスターの食べっぷりに驚きました。
あのときは僕もモニター画面が見ていられないくらい笑ってしまいました。ロブスターを食べるだけでこんなに魅力的なのは太賀さんだからこそですよね。
──豪快に食べる健太を演じた仲野さんだけでなく、お見合いのシーンにロブスターを用意した監督にも驚きました(笑)。
僕もお見合いの場で絶対に食べたくない料理だと思います。ですが生々しい生き物を素手で食べることで健太がどういう人なのか少し掴めるんじゃないかと思い、ロブスターを食べるシーンにしました。
──健太の職業が林業であることも生き物に通じるのでしょうか。
そうですね。先程もお話ししましたが、健太だけが人間味があり、弱い部分を表に出せる。そういうことから「仕事も生きている物と関わっている仕事にしたい」とイ・ナウォンさんと話していました。それを念頭に置きながらロケハンをしていたところ、長野は林業が盛んで、それを見せていただいたのです。そのときに「この仕事は健太に合うかもしれない」と思い、もともとは違う仕事にしていましたが、途中で林業にチェンジしました。