名優のキャリアを中心にその道のりを振り返る連載の第34回。今回は新作『ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』でフランス王ルイ15世を演じ、還暦にして新境地にチャレンジするジョニー・デップです。(文・米崎明宏/デジタル編集・スクリーン編集部)
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同世代の俳優たちとは一線を画す活動で気鋭の監督たちに愛された

ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』(2023)の主演であり監督でもあるマイウェンは、ルイ15世役にアメリカ俳優であるジョニー・デップを選んだ理由を「ジョニーが過去に演じた役(『シザーハンズ』(1990)や『妹の恋人』(1993)など)や感情表現から、このような型にはまらないキャスティングに理想的な俳優だと思えたんです」と明かし、ジョニーの初期作品での名演を挙げた。

ジョニーの俳優としての初期の代表作には確かに台詞よりも表情や目で語る若手アクターとして、同世代のトム・クルーズらYAスター、ブラットパック俳優と一線を画す存在として一目置かれていた印象がある。

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1963年6月9日生まれのジョニーは現在60歳。日本でいうところの還暦を迎え、『ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』のフランス国王役も演技だけでなく、どこか人生の重みのような貫禄も自然に漂っている。

彼が俳優デビューしたのは1984年のホラー映画『エルム街の悪夢』だったので、今年で俳優生活40周年となるわけだ。1980年代は『プラトーン』(1986)などに脇役で出演していたが、1987年にスタートしたTVシリーズ「21ジャンプ・ストリート」の高校に学生を装って潜入捜査する刑事役で全米のアイドルに。

映画には1990年にジョン・ウォーターズ監督の『クライ・ベイビー』、ティム・バートン監督の『シザーハンズ』といった異才の作品で初主演。

画像: 初主演映画『クライ・ベイビー』の若かりしジョニー Photo by Getty Images

初主演映画『クライ・ベイビー』の若かりしジョニー

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以後も『エド・ウッド』(1994)などでバートン監督作の常連となったり、エミール・クストリッツァ監督の『アリゾナ・ドリーム』(1992)、ラッセ・ハルストレム監督の『ギルバート・グレイプ』(1993)、ジム・ジャームッシュ監督の『デッドマン』(1995)、テリー・ギリアム監督の『ラスベガスをやっつけろ』(1998)など欧州監督や気鋭の監督のインディペンデント系映画に多く主演していたためか、ビッグスターというよりは、映画通が知る若手演技派という立ち位置にいたし、ジョニー自身もハリウッドのメインストリームにいるよりその方が心地が良いという感じだった。

その状況が一変したのが2003年主演した『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』の世界的大ヒット。ジョニーが自らのイメージを具現化した海賊、キャプテン・ジャック・スパロウ役は初のアカデミー賞主演男優賞ノミネーションを受け、現在までに4つの続編が製作され、世界的名声をもたらした。

これも1998年にパートナー関係となったヴァネッサ・パラディとの間に生まれた2人の子供たち(リリー=ローズ・デップとジョン・クリストファー)のために出演したという。ジョニーはヴァネッサの母国フランスとアメリカを行ったり来たりしていたので、フランスとの縁はこの頃深まったものといえそう。

画像: 2015年、ジャック船長の扮装で映画興行者向けイベントに登場 Photo by Getty Images

2015年、ジャック船長の扮装で映画興行者向けイベントに登場

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大スターとなったジョニーは『ネバーランド』(2004)『スウィーニー・トッド/フリート街の悪魔の理髪師』(2007)でもオスカー主演賞候補となり、『チャーリーとチョコレート工場』(2005)なども大ヒット。キャリアの絶頂期を迎える。

だが2012年、ヴァネッサとの関係を終え、『ラム・ダイアリー』(2011)で共演したアンバー・ハードと結婚したものの、あっという間にこの蜜月も終焉を迎える。

しかも周知のようにこの離婚はジョニーがアンバーに暴力をふるったという訴訟が裁判沙汰となって、最終的にジョニーが勝利したものの、キャリアには大きな悪影響を及ぼすことになった。

しかしこの間に出演した『MINAMATAーミナマター』(2020)などの低予算映画で好演を見せ、演技者として彼が新たなステージに入ったことを証明している。ある意味、こうした作品で活躍することは初期のジョニーがハリウッド大作より個性的な小品を優先していた時代を思わせるものがある。

ハリウッドから飛び出した『ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』にもそんなジョニーの新しい魅力が発揮されているように思えるのだ。今後ジョニーがどんな映画出演をチョイスするか、注目していきたい。

『ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』

画像: 『ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』

仏王ルイ15世の公式の愛人として情熱的に生きた伯爵夫人

18世紀フランスで、59年間も王位に即位していたルイ15世の最後の公妾として知られるデュ・バリー伯爵夫人。美貌と知性を持ち、娼婦だった身分から社交界に進出して、国王をも一瞬で魅了したという彼女は、ベルサイユ宮殿を牛耳っていた時期もあったという。

そんなデュ・バリー夫人とルイ15世の物語を描いた本作は、『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』(2015)などのマイウェンが監督と主演を兼任し、ルイ15世役にハリウッド・スターのジョニー・デップを起用して話題を呼んだ。

私生児として生まれ、好奇心旺盛で奔放なジャンヌは、母と向かったパリで娼婦のような生活を送っていたが、デュ・バリー伯爵が身請人となったことで社交界デビューし、ついにベルサイユ宮殿に招かれて、ルイ15世に一目で気に入られる。

デュ・バリーと政略結婚することによって王の公妾になれたジャンヌは、王宮での生活を送るようになるが……。

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『ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』
フランス/2023/1時間56分/配給:ロングライド
監督・出演:マイウェン
出演:ジョニー・デップ、バンジャマン・ラヴェルネ、ピエール・リシャール、 メルヴィル・プポー、パスカル・グレゴリー

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