テーマはフェイクや思い込みに通じる「呪」
──監督は原作者の夢枕獏さんが陰陽師シリーズを書かれる前からのファンで、35年ほど前に夢枕さんから直接、映画化を打診されたと聞きました。しかし、本作はオリジナル脚本です。なぜ夢枕さんの小説を映画化するのではなく、オリジナルの話にされたのでしょうか。
夢枕さんの小説に出てくる安倍晴明は40歳くらいの設定で、短編が中心。もちろん長編もありますが、それは2000年以降の作品です。短編を組み合わせるというやり方もありますが、それは映画よりもテレビドラマ向きです。
何より小説では最初から安倍晴明と源博雅がバディになっているので、2人が出会うところを描いてみたいと思ったのです。
──物語の着想のきっかけは何かありましたか。
この作品について考え始めたのは『アンフェア the end 』(2015)が終わった直後で、ちょうどその頃、インターネット上にトランプ前大統領のフェイクニュースが流れました。多くの人が偽情報に踊らされて右往左往している状況は「陰陽師」の小説のテーマになっている「呪」にかかってしまった状態と同じだと思いました。「呪」は意識に作用を及ぼすことで肉体にも影響を与える暗示や催眠術、思い込みのようなものなのです。
フェイクや思い込みに通じる「呪」
をテーマにして物語を作ると、今に通じて面白いのではないかと考えたのが本作を作ろうとしたきっかけでした。
──2016年から取り掛かったということは脚本開発にかなり時間を掛けられたのですね。
この作品のために、まずナチュラルガーデニングを学びました。晴明の家は雑草が生い茂っていますが、それを映画で再現するにはどうしたらいいのか、わからなかったのです。グラスガーデンを作っていらっしゃる方のところに行って、1年間教えていただいてきました。残念ながら、今回の作品には晴明の家は出てこなくなってしまったのですけれど(笑)。
次に乗馬を3年くらいやりました。晴明と博雅が馬に乗るシーンを出すつもりだったので、自分が馬に乗れないと馬の演出ができないと思ったのです。その後、平安装束の着付けを学びながら、脚本を書いていきました。
脚本は何稿も重ねましたが、苦労したという感じはありません。自分で細かいところまで考えるというよりも、ネタを頭に入れておくと、頭の中でキャラクターが喋り出すので、それを書き写した感じです。