実在した陰陽師である安倍晴明が音楽好きの貴族・源博雅と一緒に不可解な謎を解き明かしていく。夢枕獏のベストセラー小説「陰陽師」シリーズは小説だけでなく、コミック、テレビドラマ、映画、舞台、Netflixの配信アニメと様々なメディアで展開されてきた。映画『陰陽師0』は山﨑賢人を主演に迎え、陰陽師になる前の晴明が博雅といかに出会い、絆を結んでいったのかを描いた"安倍晴明の生誕1100年"を記念したアニバーサリー作品である。夢枕獏が「『陰陽師』の映画化をするならこの人に」と望んだ佐藤嗣麻子監督に物語の着想のきっかけ、キャストや演出について語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

テーマはフェイクや思い込みに通じる「呪」


──監督は原作者の夢枕獏さんが陰陽師シリーズを書かれる前からのファンで、35年ほど前に夢枕さんから直接、映画化を打診されたと聞きました。しかし、本作はオリジナル脚本です。なぜ夢枕さんの小説を映画化するのではなく、オリジナルの話にされたのでしょうか。

夢枕さんの小説に出てくる安倍晴明は40歳くらいの設定で、短編が中心。もちろん長編もありますが、それは2000年以降の作品です。短編を組み合わせるというやり方もありますが、それは映画よりもテレビドラマ向きです。

何より小説では最初から安倍晴明と源博雅がバディになっているので、2人が出会うところを描いてみたいと思ったのです。

画像: テーマはフェイクや思い込みに通じる「呪」

──物語の着想のきっかけは何かありましたか。

この作品について考え始めたのは『アンフェア the end 』(2015)が終わった直後で、ちょうどその頃、インターネット上にトランプ前大統領のフェイクニュースが流れました。多くの人が偽情報に踊らされて右往左往している状況は「陰陽師」の小説のテーマになっている「呪」にかかってしまった状態と同じだと思いました。「呪」は意識に作用を及ぼすことで肉体にも影響を与える暗示や催眠術、思い込みのようなものなのです。

フェイクや思い込みに通じる「呪」
をテーマにして物語を作ると、今に通じて面白いのではないかと考えたのが本作を作ろうとしたきっかけでした。


──2016年から取り掛かったということは脚本開発にかなり時間を掛けられたのですね。

この作品のために、まずナチュラルガーデニングを学びました。晴明の家は雑草が生い茂っていますが、それを映画で再現するにはどうしたらいいのか、わからなかったのです。グラスガーデンを作っていらっしゃる方のところに行って、1年間教えていただいてきました。残念ながら、今回の作品には晴明の家は出てこなくなってしまったのですけれど(笑)。

次に乗馬を3年くらいやりました。晴明と博雅が馬に乗るシーンを出すつもりだったので、自分が馬に乗れないと馬の演出ができないと思ったのです。その後、平安装束の着付けを学びながら、脚本を書いていきました。

脚本は何稿も重ねましたが、苦労したという感じはありません。自分で細かいところまで考えるというよりも、ネタを頭に入れておくと、頭の中でキャラクターが喋り出すので、それを書き写した感じです。

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