カバー画像:Credit Melodie McDaniel.
唯一無二のフィルムメーカー、ソフィア・コッポラの歩み
女性監督として、およそ25年にも渡って第一線で活躍し続ける。“女性”という枠で語られること自体、おかしな話だが、男性優位の状況が今も色濃いままのハリウッドにおいて、ソフィア・コッポラの仕事はリスペクトに値する。
もちろん巨匠フランシス・フォード・コッポラと、やはり映画業界に身を置くエレノア・ニールという映画一家に生まれた“特権”はあった。しかし今では、両親の名が言及されることもなくなり、唯一無二のフィルムメーカーの地位を確立している。
父フランシスが監督として参加した1989年のオムニバス映画『ニューヨーク・ストーリー』の一編「ゾイのいない人生」で、まだ10代だったソフィアは脚本を担当。高級ホテルに暮らす12歳の少女という主人公に寄り添った。そこから少し時間を置き、1998年に撮った14分の短編『リック・ザ・スター』で思春期の少女の独特な感性をリリカルに切り取る。
同作を原型にした翌年の初長編監督『ヴァージン・スーサイズ』(1999)が、その後のソフィアの路線を決定づけたと言っていい。1970年代を舞台に、5人の姉妹それぞれの孤独や悩み、危うい決断を、美しい映像と音楽でつづる。“ガーリームービー”、“ガーリーカルチャー”といった言葉が、ソフィアの映画とともに語られ始めた。
2作目の『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)では東京のホテルや街を舞台に、やはりヒロインが味わう孤独感をソフィア自身の体験も込めて描き、アカデミー賞脚本賞を受賞する。
ここから『マリー・アントワネット』(2006)のカンヌ国際映画祭コンペティション参加、『SOMEWHERE』(2010)のヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞、『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』(2017)のカンヌ監督賞……と、ソフィア・コッポラは国際映画祭の常連となり、カンヌでは審査員も経験した。
“観たい世界”に入り込み非日常の世界を愛でる
すべての作品で女性が主人公、あるいは男性と女性が同列の主人公。そして美術や小道具、選曲にこだわり、そのセレクトや使われ方が作品自体の魅力になる。ソフィア・コッポラ作品の特徴はかなり一貫しており、だからこそ「観たい世界に入り込む」という観客の欲求を満たしてくれる。
さらにソフィアの志向を挙げるとしたら、セレブライフの具現化。初脚本の「ゾイのいない人生」での高級ホテル生活に始まり、『ロスト・イン・トランスレーション』ではハリウッドスターを登場させ、『マリー・アントワネット』ではヴェルサイユ宮殿での贅を尽くした日常、『SOMEWHERE』でもホテル暮らしを続ける映画俳優と娘の関係をみつめた。『ブリングリング』(2013)で少女たちが盗みに入るのもハリウッドの豪邸。
そして最新作『プリシラ』では、あのエルヴィス・プレスリーという歴史に残るセレブの日常にも迫っていく。ホテルや豪邸のおしゃれなインテリアとともに、われわれ観客も、ソフィアが描くそうした非日常の世界を愛でることになる。
ただし近年は、南北戦争を背景にしたサスペンス『The Beguiled〜』、コメディ色も強い『オン・ザ・ロック』(2020)など、作品の多様化もみせる。ニューヨークを起点にしていることから、ニューヨークシティ・バレエの短編を撮るなど、「惹かれた題材」への自在なアプローチがソフィアの流儀。
それゆえにメジャースタジオとは一線を画し、A24配給などインディペンデントでの製作を貫く姿勢が、次に何を手がけるのか、つねに映画ファンに注視されている。
バンド「フェニックス」のボーカル、トーマス・マーズとの結婚生活も順調のよう。マーズは『ヴァージン・スーサイズ』に楽曲を提供した縁もあり、『プリシラ』でも選曲を手伝うなどソフィアの映画を支えている。