『ゼロ・グラビティ』と『ROMA/ローマ』でアカデミー賞監督賞を2度受賞したアルフォンソ・キュアロン。その6年ぶりとなる新作「ディスクレーマー 夏の沈黙」 は、彼にとっても初となる7話のドラマシリーズだ。一流ジャーナリストのキャサリンの隠された過去が明らかになるスリリングな展開が、キュアロンらしい重厚な映像美と、主演ケイト・ブランシェットらのハイレベルな名演によって、最終話までどんな方向に導かれるかわからない作品が完成された。来日したキュアロンに本作がどんなチャレンジになったのかを聞いた。(取材・文/斉藤博昭)

『ROMA』に続き海岸でのシーンがキーになったのは「偶然の一致」

ーー「ディスクレーマー 夏の沈黙」は原作がありますが、どんな部分に惹かれたのでしょう。

「原作はとても説得力があるストーリーで、なおかつ探究したいテーマがたくさんありました。これを映像にしたら、観る人に“自分自身の物語”だと感じさせられると直感したのです。そこで『ROMA』の後に新たなパートナーになってくれたApple TV+に本作を提案してみました」

ーーその時点で長編映画ではなくドラマシリーズでやろうと?

「はい。最初は8つのエピソードを想定して脚本を書き進め、最終的に7つに分割しました。一方で映画祭などで一気に上映することも考え、ひとつの作品にまとめたつもりです」

ーー東京国際映画祭でも前編7話、後編3話に分けて上映されましたね。主人公のキャサリンにケイト・ブランシェットを想定して脚本を書いたそうですが、他のキャストも役にぴったりの名演技をみせています。

「キャサリンと同じくらい私が感情移入したのは、ニコラス(キャサリンの息子)のキャラクターでした。そこで、この役を演じられる世代で最も才能を感じたコディ・スミット=マクフィーに任せたんです。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』で高い評価を受けましたが、私はそれ以前の、ヴァンパイアの少女と恋をする『モールス』の頃から彼に注目していました。撮影現場では演技に対してとても真摯に向き合う俳優でしたね」

画像: キャサリン(ケイト・ブランシェット)

キャサリン(ケイト・ブランシェット)

画像: ニコラス(コディ・スミット=マクフィー)

ニコラス(コディ・スミット=マクフィー)

ーーキャサリンが過去に“ある関係”を結ぶ青年ジョナサン役のルイス・パートリッジ、若き日のキャサリンを演じるレイラ・ジョージも、本作をきっかけに躍進しそうですね。

「ルイスは、よく知られている『エノーラ・ホームズの事件簿』と、ダニー・ボイルが監督したミニシリーズ『Pistol』でのシド・ヴィシャス役が別人のようで驚きました。今回のキャスティングの際に面会して、その奥深い魅力を改めて発見しました。そしてレイラは、両親がグレダ・スカッキとヴィンセント・ドノフリオという“サラブレッド”ですが、周囲につねに心を開くタイプ。こちらも才能に惚れ込んで抜擢しましたよ」

ーーレイラとケイト・ブランシェットは同一人物を演じたわけですが、雰囲気を似せるなど何か特別な演出をしたのですか?

「現在の技術では、俳優をAIで若返らせることも可能でしょう。でも私はそんなことをしたくなかった。だからレイラに“過去のキャサリン”の雰囲気を表現してもらいました。最初にロンドンでケイトのシーンを撮影し、それをレイラは観察しながら細かくメモを取っていました。ケイトはセリフがそれほど多くないので、髪を触るなどちょっとした仕草を見つけ、参考にしたんだと思います。その後、レイラのパートを撮ると、彼女は普段とは別人のような演技をみせ、若き日のキャサリンになりきっていました」

画像: 過去のキャサリン(レイラ・ジョージ)

過去のキャサリン(レイラ・ジョージ)

ーーその若き日のキャサリンのシーンでは、イタリアの海岸が登場し、そこでの出来事が作品全体の重要なポイントになります。前作の『ROMA』でもラストシーンは海で劇的なことが起こりました。

「それは明らかに偶然の一致で、私も作品を観た人に指摘されて初めて気づいたくらい(笑)。こういうことはよく起こるんですよ。たとえばギレルモ・デル・トロの映画には腕時計やトンネルがよく出てきます。おそらくギレルモは意識して使っているわけじゃない。無意識というか、偶然に何かがシンクロするのは、映画作家のひとつの側面ですね」

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