自分からガツガツ、グイグイいく演技が多かったジェシー
── 一咲を福本莉子さん、啓弥をジェシーさんが演じています。お二人についてはどのような印象をお持ちでしたか。
福本さんはピュアで物静かな役が多いイメージだったので、一咲を演じたらギャップがあっておもしろいのではないかと思いました。ご本人は「こういう役を演じたことがないので感覚をつかむのが難しい」とおっしゃっていましたが、僕から見ると福本さんも芯が強い女性なので、近いところがあるように感じました。
ジェシーくんはそもそもビジュアルがいいですし、彼が主演した「ビートルジュース」というミュージカルを拝見して、すごく芸達者だとわかり、任せても大丈夫だと思いました。コメディもシリアスもでき、カッコいいところと可愛いところの使い分けもできていたのです。しかも、ジェシーくんは何を考えているのか、わからないところに啓弥に近いものを感じました。
──現場でのお二人はいかがでしたか。
福本さんは本番で芝居の様子を変えてくることもあるんですよ。例えば、テイク2をテイク1よりくだけた感じにしてきたことがあったので、話を聞いてみると、「ちょっとやってみました」と。福本さんはジェシーくんや櫻井くんが発するものに対するアンサーとしての受けの芝居が多いので、そこに変化が生まれて面白くなっていったのかなと。「一咲だったらこうではないか」ということをすごくよく考えていた気がします。
ジェシーくんの場合は、とにかくカッコいい啓弥として一咲をメロメロにさせなくてはいけない。しかも前半は一咲に対する気持ちが何なのかということが本人にはわかっていないまま、溺愛の気持ちで無自覚に動いています。ある意味、動物的な役どころなので、自分からガツガツ、グイグイいく演技が多かったので難しかったのではないかと思います。

──福本さんは表情の変化だけで一咲の気持ちの揺れを表現していました。
啓弥が好きだけれど、その気持ちを啓弥に悟られたくない。しかし、観客には伝えなくてはなりません。コメディなら大袈裟にやってしまいがちですが、リアリティラインを守りながら、その辺の匙加減を繊細に、違和感なくやってくれました。特にカラオケの後の車の中のシーンは素晴らしかったですね。
──そのシーンの流れで、啓弥がシャツについた一咲のリップの跡を愛おし気に触れますが、啓弥の戸惑う気持ちが伝わってきます。
リップが付いたところを触れつつも、なぜそうしてしまうのか、自分でもわかっていない。啓弥が一咲を一人の女性として意識した瞬間です。啓弥はそれまで一咲に対して若頭として、お世話係として守るべき対象の少女とは思っていましたが、お化粧をしている一咲のよそいきの顔を初めて見て、一咲も一人前の女性だと気が付いたのです。
ただ、動揺しているというよりも、「参ったな」といった感じです。その辺の表情については細かく伝えなくても、そこに至るまでの啓弥がめちゃくちゃカッコよかったので、ジェシーくんはその余韻で演じてくれました。本人もそのモードが入っていたのでしょう。

──そのシーン以外も含め、本作は一咲と啓弥が接近しているシーンが多いですね。
啓弥は一咲のことが心配な余り、顔を間近に寄せてしまうことが多い。本能的な行動なので、無自覚にぐいぐいいってしまう。
一咲は啓弥が自分に恋愛感情を持っていないことがわかっているけれど、啓弥があまりにも近くにいるので、ドキドキしてしまい、勝手にじれているというスタンスが最後まで続くのです。
── 一咲と啓弥が動物園でデートをする様子が点描シーンとして描かれていました。二人がとても楽しそうでしたが、こちらのシーンを撮るときに意識されたことはありましたか。
基本的にはアドリブでした。2人に「こういうシチュエーションで撮ってみようか」と話し、その場でいきなりやってもらった感じです。本編では音楽を流すことを決めていましたが、現場では声も撮っていました。
こういうシーンは役から少し離れて役者の素が出てしまいがちですが、2人もちゃんと役を意識してくれ、素に戻っているように見えるけれど、実は一咲であり、啓弥であるというバランス感覚が抜群だったと思います。

──啓弥のアクションシーンがありましたが、回し蹴りが見事に決まっていました。ジェシーさんは空手の経験者で黒帯を持っていらっしゃいますが、アクションシーンの撮影で印象に残っていることがありましたら、お聞かせください。
ジェシーくんが空手経験者だったとは知りませんでした。アクションシーンの練習日を何日か設けたのですが、覚えがすごくよかった理由がわかった気がします。スタジオコーディネーターの出口正義さんはよりカッコよく見えるように、どんどんアクションを変化させていきました。