エリオット監督「登場人物はみんな、僕が出会った人や、知っている人たちなんです」
『かたつむりのメモワール』に登場するのは、一見、変わった人々ばかり。かたつむりとかたつむりグッズで部屋中をいっぱいにするグレイス。火を吹く大道芸人になるのが夢の弟ギルバート。かつては世界中を旅行してカストロともピンポンをしたと語る老女ピンキー。しかし、彼らはみんな、監督自身が知っている人々を元に発想した人物だ。
「すべてのキャラクターが、僕が会った人とや知ってる人にインスピレーションを受けています。私の母親にはグレイスのような溜め込み癖があって、人がモノを溜め込むのはなぜだろうと興味を持ちました。私の友人に、グレイスのように口唇裂のためにトラウマ的な子供時代を過ごした人物がいます。老女ピンキーは何人かの寄せ集めですが、彼女のようにヌーディストやファッションデザイナーだったりした、カラフルでエキセントリックな人たち。私の父親は、ギルバートが憧れるようなアクロバティックなピエロをしていたんです」
本作の中には、日本からインスピレーションを受けたシーンもある。
「老女ピンキーが語る思い出話の中に、雪の中で猿と一緒に温泉に入っているシーンがありますが、あれは日本の温泉です。彼女は日本にも行っているはずだと思ったけど、着物姿のような当たり前な場面は彼女らしくないから、あのシーンにしました。僕も実際、2017年か2018年に、日本であの温泉に行っているんです。
あと、グレイスの恋人ケンは、性格ではなく、名前だけ、日本人からもらいました。父が引退してエビの養殖を始めた時、日本から養殖技術の研究者たちがやってきて、その中の一人の名前がケンだったんです」

監督・脚本のアダム・エリオットはオーストタリア出身。クレイアニメーション映画『メアリー&マックス』(08)でもおなじみ
エリオット監督「キャラクターのデザインにはこだわっています、もうパラノイアになりそうなくらい(笑)」
登場人物たちは性格がユニークなだけではなく、外見もかなり独特。一見、キュートには見えないが、映画を見ているとだんだん愛らしく見えてくる。
「キャラクターのデザインについては、いつもパラノイア(偏執症)になってしまいます(笑)。登場人物をデザインする時に意識しているのは、シワとか、大きな耳とか、何か特徴的なものを作ることです。僕はドローイング(素描)が大好きで、ヨガや瞑想のように、毎日、ドローイングします。いろんなものを描きますが、中でも人間を描くこと、身体の何かの部分を誇張して描くことが大好きなんです。だから、そういうデザインになってしまうんだと思います。
今回、造形が難しかったのは、グレイスの弟ギルバートです。世の中の不公平に対する怒りや、欲求不満を体現するキャラクターだから、ハンサムであるべきだと分かっているんだけど、何度やってもハンサムにならなくて(笑)。
僕のキャラクターの容姿は、一見した時は、醜いとか、グロテスクだと思われるかもしれないけど、僕自身は、彼らを醜いとは思っていないんです。全員が愛すべき姿をしていると思っています。どんなに完璧に美しい人でも、「自分のここは醜い」と思う部分があるんじゃないでしょうか。僕自身はちっとも完璧じゃなくて、髪の毛は無くなってきてるし、ちょっと太り気味だけど、でもそういうところが、僕をユニークにしている、僕を僕らしくしていると思っているんです」

グレイスと、双生児の弟ギルバート、2人の父親は大の仲良しで、楽しい思い出がたくさんある ©2024 ARENAMEDIA PTY LTD, FILMFEST LIMITED AND SCREEN AUSTRALIA
エリオット監督「家族は選べないけど、ラッキーなことに、友人は自分で選べます」
本作では、年齢も育った環境もまったく違う、偶然出会った2人、グレイスとピンキーが友情を築いていく。監督の前作『メアリー&マックス』(2008)でも、オーストラリアに住む幼い女の子と、NYに住む中年男性が、文通を通して強い絆を築いていく。監督は、どちらの作品でも、恋愛でも家族愛でもない、人間と人間の強い絆の物語を描いている。
「僕は、まったく異なる背景を持つ人間たちの友情の物語に惹かれるんです。外見的には何も共通点のない2人が、強く結びつくことがある。世代を超えた友情が結ばれることもある。人と人の間には、どんな場合でも、お互いに学ぶことがある。例えば世代が離れていても、老人は若者から若さを学ぶし、若者は老人から知恵を学ぶ。そうじゃない老人も多いですが(笑)。
そういう友情は、とても貴重だと思うんです。僕自身も、家族との関係よりも、友情を大切にしています、僕の場合は、ですが。そして、ラッキーなことに、家族は選べないけど、友人は自分の意思で選ぶことができます」
ちなみに、本作の声の出演には人気俳優たちが続々。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』『エルヴィス』のコディ・スミット=マクフィー、『ブルーバック あの海を見ていた』のエリック・バナ、人気ミュージシャンのニック・ケイブらが声を演じている。
「彼らはみな、僕と同じオーストラリア出身で、地元の映像作家をサポートしたいという気持ちがあるんじゃないかと思います。それと、俳優にとっては、生命のない粘土の人形に、自分の演技で命を吹き込むことができるということが、魅力的なのではないでしょうか」

グレイスは本を読むのが好き。一緒にいつのはいつも、かたつむりたちだけだったが... ©2024 ARENAMEDIA PTY LTD, FILMFEST LIMITED AND SCREEN AUSTRALIA
『かたつむりのメモワール』6月27日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿 ほか全国順次公開
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youtu.be<STORY>
1970年代のオーストラリア。グレースは、父と双生児の弟ギルバートと一緒に暮らしていたが、父が亡くなり、弟は遠くに引き取られて、ひとりぼっちに。彼女は、かたつむりの収集と、弟との文通を心の拠りどころに孤独な日々を送っていたが、ある日、陽気な老女ピンキーと出会い、友人になっていく。
<STAFF&CAST>
監督・脚本:アダム・エリオット 声の出演:サラ・スヌーク(グレース)、コディ・スミット=マクフィー(ギルバート)、ジャッキー・ウィーバー(ピンキー)、ドミニク・ピノン(パーシー)、エリック・バナ(ジェームズ判事)、ニック・ケイヴ(ビル)
配給:トランスフォーマー