作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。(デジタル編集・スクリーン編集部)

〜今月の3人〜

杉谷伸子
映画コラムニスト。2026年のマイベスト映画は『ハムネット』で確定の予感。「ハムレット」のあの名台詞に震えた。

前田かおり
映画ライター。本作のキム・ヘユン監督が演出を手掛けたドラマ「私が死ぬ一週間前」、傑作です、ぜひ!

米崎明宏
映画ライター、編集者。NFAJで『キャリー』を再鑑賞。終幕で悲鳴でなく拍手が起きて半世紀の時の流れを感じる。

杉谷伸子 オススメ作品
『フェザーズ その家に巣食うもの』

妻を亡くした男の苦しみと罪悪感を
カラスの姿を借りて表現する喪失と再生の物語

画像1: 杉谷伸子 オススメ作品 『フェザーズ その家に巣食うもの』

評価点:演出4/演技4.5/脚本4/映像4/音楽3.5

あらすじ・概要
突然、妻に先立たれた、コミック・アーティスト。幼い2人の息子と新たな生活を始めようとしつつも、父親として悪戦苦闘するなか、彼がコミックとして描く生き物に似た“クロウ”が、目の前に現れる。

いかにも邪悪な何かが家に棲みついているオカルトなホラーを連想させるタイトルだ。実際、物語は幕開けから重く暗いトーンに包まれている。ベネディクト・カンバーバッチが演じるコミック・アーティストの妻がどのようにして亡くなったのか、明かされないまま進む展開もまた、ますます不穏な空気を募らせる。けれども、これは妻を突然失った現実を受け入れられない男の苦しみと、母を失った幼い息子たちをちゃんとケアできない罪悪感を、彼が描くコミックのキャラクターである“カラス(クロウ)”の姿を借りて表現した喪失と再生の物語。そう、この家に巣食っているのは、彼の絶望や苦悩だ。それは息子たちを怯えさせるものでもある。

画像2: 杉谷伸子 オススメ作品 『フェザーズ その家に巣食うもの』

「DAD 父」「CROW クロウ」「BOYS 子供たち」、そしてもうひとつの存在からなる4章仕立てだが、息子たちの視点を交えることで、家族の再生が陰影豊かに。CGではなく特撮だからこその存在感がある“クロウ”の言葉に、デヴィッド・シューリスの声がさらなる深みを与えて、大正解だ。

公開中、スターキャットアルバトロス・フィルム配給
© THE THING WITH FEATHERS LTD / THE BRITISH FILM INSTITUTE / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2025 ALL RIGHTS RESERVED.

前田かおり オススメ作品
『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』

天涯孤独な女子高生と冷徹な講師の
共同生活の行方を描くハートフルドラマ

画像: 前田かおり オススメ作品 『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』

評価点:演出5/演技5/脚本4/映像4/音楽4

あらすじ・概要
 母を事故で亡くした女子高生のイニョンは住む家を失い、所属する舞踊団の練習室でこっそり寝泊まりしていた。ある夜、魔女と呼ばれる先生のソラに見つかったイニョンはソラの家に居候することになるが。

心を鼓舞するような太鼓の音に合わせて舞い踊る韓国の伝統舞踊。その舞踊団を舞台に、母を亡くした女子高生イニョンと、共に暮らすことになった講師ソラとの心の通い合いを描く。

2人は年齢も性格も嗜好も何もかも違う。ある時、イニョンは食事に焼いたスパムと目玉焼きを“ご飯泥棒”と言っておかずに出すが、青汁のようなジュースしか飲まないソラは、「余計なことをするな」と怒る。相手が誰であろうが、他人と暮らせば面倒は起きる。2人は戸惑いを感じながらも、次第に温もりある時間を共有していく。監督のキム・ヘヨンは本作が長編デビュー作だが、さらりとした心理描写に好感が持てる。

主演は『ソウォン/願い』などの名子役として知られるイ・レ。本作では不憫な身の上など微塵も感じせず、溌溂と生きるイニョンを気持ちいいほどのびのびと演じている。脇を固めるのも芸達者揃いだ。とくに、子供の頃からイニョンを見守って来た街の薬屋に扮したソン・ソックは必見。相変わらず、いい仕事してます。

公開中、日活、KDDI配給
Ⓒ 2023 TWOMEN FILM ALL RIGHTS RESERVED.

米崎明宏 オススメ作品
『ハムネット』

シェイクスピアによる歴史的名作誕生の裏にあった
妻と息子の悲話とは?

画像1: 米崎明宏 オススメ作品 『ハムネット』

評価点:演出5/演技5/脚本5/撮影4/音楽4

あらすじ・概要
1580年のイギリス。小さな村で教鞭をとるウィリアム・シェイクスピアは不思議な力を持つ女性アグネスに心惹かれ結ばれる。2人に3人の子供ができ、ウィリアムは作家として成功を掴むためロンドンに赴くが…。

大学時代、英文学の授業で「ハムレット」を1年間勉強したので、その創作に関する話題のフィクションの映画化は個人的にも食指が動かされた。作家ウィリアム・シェイクスピアにハムネットという名前の息子がいたことはあまり取り上げられない。その存在に注目した作者マギー・オファーレルは世紀の戯曲「ハムレット」誕生の裏にいたこの息子とウィリアムの妻アグネス(通常アン・ハサウェイと呼ばれるが、ここで作者は彼女が出生時に与えられた名前で呼んでいる)を重要人物として描いている。

運命的な出会いで結婚した教師のウィリアムと神秘的な女性アグネス。作家を志すウィリアムをロンドンに送り出したアグネスは一人で3人の子育てに奮闘する。しかしある時大きな悲劇が一家に襲い掛かる…。歴史的名作誕生にこのような悲話が存在していたと考えるだけで興味をそそられるが、ここでクロエ・ジャオ監督が描いているのはシェイクスピア夫妻の愛情の変容と不滅の絆。それを感じさせるクライマックスの初演舞台には興奮を覚えずにいられない。

画像2: 米崎明宏 オススメ作品 『ハムネット』

公開中、パルコ、ユニバーサル映画配給
©2025 FOCUS FEATURES LLC.

前回の連載はこちら

This article is a sponsored article by
''.