映画『モブ子の恋』は、自分を人生の主役ではない「脇役(モブ)」だと自認する大学生・田中信子の初恋と成長を描いた物語だ。メガホンを取ったのは、ドラマ「silent」などで繊細な心の機微を映し出してきた風間太樹監督。主演の桜田ひよりが体現する「内気な揺らぎ」と、木戸大聖が放つ「待てる誠実さ」。監督は震える指先や足元のディテール、そして柔らかな光の演出によって、言葉を超えた二人の距離感をスクリーンに焼き付けた。「足踏みは、一生懸命に生きようとする誠実さの証」と語る監督に、シーンの舞台裏と日々を懸命に生きるすべての人へ贈る肯定のメッセージを訊いた。(取材・文/ほりきみき)

「モブ」としての葛藤に寄り添い、描き切った「自己受容」への旅路

──田村茜さんの原作コミックを読んだ際、監督が最も心を動かされたポイントはどこですか。

主人公の田中信子が、対人関係において足踏みしながらも、一歩ずつ成長していく姿に強く惹かれました。原作は彼女の心の声……つまり内面にある葛藤や不安がとても丁寧に、かつ重層的に描かれているのですが、読んでいて自分自身にも思い当たるところが多く、深く共感したのが大きかったですね。

「人と真摯に向き合いたい」という願いがありながら、どうしても人間関係のサークルの外側で足踏みしてしまうもどかしさ。僕の中にもそうした躊躇は当然のようにあるので、彼女の痛みがよく分かったんです。そんな彼女が入江くんに対して好意を抱き、自分の恋心に気づいてから、それを少しずつ言葉にしていく。そのプロセスが非常にゆっくりと、じんわり、ぽかぽかと温かく進んでいく作品なんです。

読み進めるうちに、自然と彼女を応援したくなるような感覚がありました。誰の心の中にもある「自分を脇役(モブ)のように感じてしまう部分」に対して、この物語を内省的に映像化することで、何か兆しや生きづらさに対する救いのようなものを提示できるのではないか。そう確信したことが、この作品を撮りたいと思った出発点でした。

──だから“恋愛映画”でありながら、“信子が自分を受け入れていく物語”でもあるのですね。この二つのバランスを脚本の倉光泰子さんとどう設計されましたか。

表面的には『モブ子の恋』というタイトルの通りラブストーリーが主軸ではありますが、その根底にある「自己受容」や「自己理解」というテーマは、物語を練り始めた当初から最も大切にしていた部分でした。脚本の倉光さんとは“恋愛を縦糸、就職活動という社会との関わりを横糸にして、信子の成長をどう織り込んでいくか”ということを常々ディスカッションしていましたね。

象徴的なのは、信子が面接の練習で「あなたはどんな人ですか?」「何を考えていますか?」と問われ、言葉に詰まってしまう描写です。入江くんに対して自分の想いを伝えようとする時に感じる不安や、自分の内側で頼りなく浮かんでくる言葉を表出させることへの慎重さ。それらはすべて、彼女が自分という人間をどう捉えているかという問題に繋がっています。

恋愛と就活、その両方で葛藤する姿を同時進行で丁寧に追っていくことで、最終的にこの物語が「自己受容」というゴールへ自然に辿り着けるよう設計しました。彼女のあまりの慎重さに、観ている方が思わず手助けしたくなるような、そんな危うさと誠実さを併せ持った成長譚を目指したつもりです。

画像: 「モブ」としての葛藤に寄り添い、描き切った「自己受容」への旅路

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