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一見関係なさそうな受賞作品にも
今年のテーマ「戦争」の仕組みが見え隠れする?

今年の映画祭ビジュアルには『テルマ&ルイーズ』が選ばれた
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ヨーロッパは戦争の縁にある。それを強く感じた第79回のカンヌ国際映画祭が終わった。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、原点である“ファシズムに対抗する”モードに回帰したカンヌ映画祭だが、68年の5月革命を受けたヌーベルバーグの監督たちの抗議により方針を明確にした“作家主義”ももう一つの原点である。今年のカンヌは、2017年以来続けてきたハリウッドのサマーシーズン大作をワールドプレミアとして迎えることをやめた。結果として“作家性”にフォーカスを当てる原点に帰り、二つの原点を確認するかのようなコンペティションのラインナップと授賞結果になったといえよう。

コンペ部門の審査員団(左からポール・ラヴァーティ、ルース・ネッガ、イザック・ド・バンコレ、クロエ・ジャオ、デミ・ムーア、審査員長パク・チャヌク、ローラ・ワンデル、ディエゴ・セスペデス、ステラン・スカルスガルド)
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今年のテーマは「戦争」だった。今年はアメリカとイスラエルによるイラン攻撃から始まる中東危機の再燃に世界が慄き、ヨーロッパ各国はその立ち位置を問われている。ウクライナの支持、パレスチナへの連帯に続き、カンヌはこの状況に対してどう対処したのか。4月9日に発表された21本(後に1本アメリカ作品が追加)のコンペティション作品は16本がヨーロッパ映画であり、その内直接に戦争を背景にした作品が6本、受賞8作品(監督賞が2作品だったので)中5本が戦争がらみの作品だった。作品を選定するのは映画祭だが、受賞作を決めるのは審査員団。そのどちらもが、今年のテーマは戦争だと考えたということになろう。

パルムドール受賞作『フィヨルド』(クリスティアン・ムンジウ監督)
しかし、審査員団が選出したパルムドオル『フィヨルド(原題)』は、ルーマニアからノルウェイの小さな町に移民したキリスト教原理主義の一家が、子どもを虐待したとされてしまう物語で、一見戦争とは関係なく見える。が、“人権”先進国の正義と一家の宗教的正義が対立し、互いに理解と寛容性を欠いたまま双方が正義を主張して争い、一番弱いところにしわ寄せが行き悲劇になるというのは戦争が起こる仕組みとその悪ではないかと思う。

最高賞に選出された『フィヨルド』のムンジウ監督が主演のレナーテ・レインスヴェ、セバスチャン・スタンに囲まれて
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『4ヶ月、3週と2日』でパルムを獲得したクリスチャン・ムンジウ監督は個人大の経験に社会大の問題を落とし込むのがうまい監督だ。今回もその手法で世界を包む戦争を起源的に突き詰め、宗教や文化の違いによるドメスティックと西欧米“先進”国の分断・対立へと描き替えて見せたのだ。

レッドカーペットで手を振る『急に具合が悪くなる』のヴィルジニー・エフィラ、濱口竜介監督、岡本多緒
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『急に具合が悪くなる』のヴィルジニー・エフィラと岡本多緒が女優賞をW受賞
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直接戦争を取り上げていない3本の受賞作の内、女優賞をWで受賞した濱口竜介監督『急に具合が悪くなる』のヴィルジニー・エフィラと岡本多緒が演じたのは、革新的で人間的な介護法を実践する介護施設長とステージ4のがん患者である日本人演出家である。二人が出合い、生と死、ヒューマニティと不寛容な社会など、人間性を阻害する社会の仕組みや人間のあるべき姿などの哲学的考察を延々と語り合い、かけがえのない関係を結んでいく数日間の物語。直接に戦争について考えるわけではないが、非人間的な効率社会の行き着く先として現在があり戦争があるという点を指摘する点では、間接的に戦争について語っているといえないこともない。ただし、非・戦争もの受賞作3本目、審査員賞ヴァレスカ・グリーゼバッハ監督の『ドリームド・アドベンチャー(英題)』は、闇で儲ける男たちとかかわることになり、自分の抑圧された欲望と過去と向き合うことになる女性考古学者の物語で、戦争とのつながりを想像するのはちょっと難しかった。

審査員賞受賞の『ドリームド・アドベンチャー』の主演ヤナ・ラデヴァとヴァレスカ・グリーゼバッハ監督
Photo by Dominique Charriau/WireImage
第79回カンヌ国際映画祭受賞結果
コンペティション部門
パルムドール:『フィヨルド(原題)』(クリスティアン・ムンジウ監督)
グランプリ:『ミノタウロス(原題)』(アンドレイ・ズビャギンツェフ監督)
審査員賞:『ドリームド・アドベンチャー(英題)』(ヴァレスカ・グリーゼバッハ監督)
監督賞:(同点)ハヴィエル・カルヴォとハヴィエル・アンブロッシ(『ブラック・ボール』英題)、パヴェウ・パヴリコフスキ(『ファザーランド』原題)
男優賞:エマニュエル・マキアとヴァランタン・カンパーニュ(『カワード』原題)
女優賞:ヴィルジニー・エフィラと岡本多緒(『急に具合が悪くなる』)
脚本賞:エマニュエル・マール(『ア・マン・オブ・ヒズ・タイム』英題)
名誉パルムドール:バーブラ・ストライサンド、ピーター・ジャクソン、ジョン・トラヴォルタ
ある視点部門
最優秀作品賞:『エブリタイム(原題)』(サンドラ・ウォルナー監督)
審査員賞:『エレファンツ・イン・ザ・フォッグ(原題)』(アビナッシュ・ビクラム・シャー監督)
