家族とは何か。失われた命の重さを、残された人々はどう受け止め、どう生きていくのか――。『湯を沸かすほどの熱い愛』以来10年ぶりの完全オリジナル作品となる『私はあなたを知らない、』で、中野量太監督は、これまで描き続けてきた「家族」というテーマをさらに深く掘り下げた。一つの事件から着想を得て、長い時間をかけて温めてきた本作。命が失われることで、その周囲の人々の人生がどう変化していくのかを丁寧に描き出す。「家族とは何か」という問いに向き合い続ける中野監督に、タイトルに込めた思い、登場人物の創造、そして坂口健太郎、早瀬憩らキャストとともに作り上げた人物像について話を聞いた。(取材・文/ほりきみき)

答えのない「家族」という問いを、これからも描き続けたい

──運動会で夕平が保育園にクレームを入れるエピソードですが、編集段階でフランス側から「運動会で暴れる夕平は父親の鑑だ」と日本と正反対のリアクションがあったそうですね。運動会のエピソード以外で国際共同製作ならではの文化の違いを感じ、作品に反映させたところはありましたか。

結果的には取り入れなかったですね。

もちろん、いろいろな意見はありました。ただ、やはり運動会のシーンが一番大きかったと思います。あのシーンをどう見るかによって、その後の別れのシーンの解釈も、フランス側では変わってくるんですよ。

でも、僕は日本人として、日本の文化の中でこの作品を作っています。他の国の文化や価値観を知ること自体は映画の面白さの一つだと思いますが、だからといってフランスの感覚に合わせる必要はないと思い、そこは合わせませんでした。

もちろん、編集の段階で「少し分かりやすすぎる」と言われた部分を削ったり、調整したところはあります。ただ、フランス側の意見をすべて取り入れて作品を作る、ということではありません。

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──前作『兄を持ち運べるサイズに』のフランス公開の際には、監督の出待ちをする男性が5人ほどいて、「『浅田家!』は僕のバイブルだ」と言われたそうですね。ご自身のどのような部分が海外のファンにも受け入れられているのだと思われますか。

僕は、人というものを愛おしい存在として描きたいと思っていますし、滑稽な部分こそ「人間味があって面白いもの」として捉えているつもりです。そこは、きっと国が変わっても共通する部分なのではないかと思います。

もちろん、今回待っていてくれた方々は、以前の『浅田家!』を観て好きになってくださった方たちだと思います。ただ、『浅田家!』も結局は、人の愛おしさや、その人らしさを描いた作品でした。

家族というものをどう捉えるかは、人によって本当にさまざまだと思います。家族に苦しめられている人もいるでしょうし、家族という存在が必ずしも幸せなものとは限らないことも理解しています。

ただ、僕自身はそうではなかったので、家族の苦しさを描く部分は、別の方が描けばいいと思っています。僕は今回の作品でも、状況としては苦しいけれど、それでも家族というものは決して悪いものではない、というところを描きたかった。

もちろん「家族は最高だ」と言いたいわけではありません。でも、「悪くないものなのかもしれない」と感じてもらえるような作品にはしたかった。そういう部分は、世界のどこでも共感してもらえるのではないかと思っています。

──監督はこれまで一貫して「家族」、特に「残された人がどう生きるのか」ということを描かれてきました。本作では「人を殺める」という、これまでにないハードな題材に挑まれましたが、何か超えたものはありましたか。

そうですね。ただ、どのような形で家族を描くのかは毎回違いますが、結局「家族とは何か」という答えはないんだと思います。

だからこそ、その作品ごとに登場する家族はどういうものなのかを考えている。僕は「家族とはこういうものです」と大きな答えを提示したいわけではありません。違う家族を描けば、また違う答えのようなものが見えてくる。その探求を続けていきたいと思っています。

今回の作品で一番感じたのは、やはりオリジナル作品を作る面白さでした。オリジナルであれば、そこから無限に考えを広げていくことができます。

今回も、家族というテーマに加えて、「人を殺める」という要素が入ることで、本当に答えのないものを考えていくことになりました。でも、そこがやっぱり面白かったんです。

また家族を描くとしても、オリジナル作品で挑戦してみたいと思っています。題材はまだ分かりませんが、自分なりに「家族とは何なのか」という問いを、オリジナルの中でまた探していければと思っています。

画像2: 答えのない「家族」という問いを、これからも描き続けたい

<PROFILE> 
中野量太監督 
1973年7月27日生まれ。京都育ち。 
大学卒業後、日本映画学校(現:日本映画大学)に入学し3年間映画作りの面白さに浸る。2012年、自主長編映画『チチを撮りに』(12)を制作、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にて日本人初の監督賞を受賞し、ベルリン国際映画祭を皮切りに各国の映画祭に招待され、国内外で14の賞に輝く。2016年、商業デビュー作『湯を沸かすほどの熱い愛』が、日本アカデミー賞・最優秀主演女優賞、最優秀助演女優賞など6部門受賞、国内映画賞で35冠、米アカデミー賞外国語映画部門の日本代表に選ばれる。2019年、初の原作モノとなる『長いお別れ』が、ロングランヒットに。2020年、『浅田家!』が、日本アカデミー賞・最優秀助演女優賞など8部門受賞。フランスで観客動員25万人を超えるヒットに。独自の感性と視点で、家族を描き続けている。

『私はあなたを知らない、』8月28日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

画像: 8月28日(金)公開 『私はあなたを知らない、』|本予告 www.youtube.com

8月28日(金)公開 『私はあなたを知らない、』|本予告

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<STORY> 
西山夕平(28)は天涯孤独の身。粛々と働き、自分の中で決められたルーティンで生活をし、たった一人のその環境を寂しいとも感じずに生きてきた。職場にやってきた新しいパート職員・紗月と出会うまでは。彼女と出会い、生きる喜びを得て夕平の毎日は輝いていった。そしてある日、紗月から自分の5歳の娘・朝子を紹介される。彼女は実はシングルマザーだった。紗月と朝子との生活で、これまで知らなかった“家族”という幸せの形を知り、夕平の心は開放されていくが…。

<STAFF&CAST> 
原案・脚本・監督:中野量太 
出演:坂口健太郎、早瀬憩、堀田真由、倉田瑛茉/滝藤賢一/原田美枝子 
2026 年/日本・フランス/カラー/シネマスコープ/5.1ch/126分/映倫区分G 
配給:クロックワークス 
© DKYPs./Pyramide Productions

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