映画を思い描きながら紡いだ脚本
──脚本を書かれている段階では、映像やキャラクターをどのようにイメージされていたのでしょうか。
向井:脚本を書いていた段階では、まだキャスティングは決まっていなかったので、特定の俳優を思い浮かべることはありませんでした。
ただ、映像は常にイメージしています。映画はやっぱり「画」ですから、「この場面はどう見えるだろう」「どういう空気感になるだろう」と考えながら書いています。
面白いかもしれませんが、僕はあまり日本人の俳優を思い浮かべながら書くことはないんです。例えば今回なら、シカゴやニューヨークのような街を舞台にしたアメリカ映画を頭の中で思い描きながら、「この役を演じるとしたら誰だろう」と想像したりしていました。
アメリカ映画やドラマが好きということもありますが、そういうスケール感をイメージしていると、物語そのものも少し跳ねるような感覚があるんです。もちろん日本映画ならではの繊細さや湿度も好きですが、それだけに寄らず、新しい表現ができないかと考える時には、そういう想像をすることがあります。

──その後、松村北斗さん、今田美桜さんの出演が決まってから、脚本に変化はありましたか。
向井:松村さんのお名前は、プロデューサーと話している時に比較的早い段階で候補として挙がっていました。僕も過去の出演作を拝見していたので、「良いですよね」という話はしていましたが、その時点ではまだ漠然としたものでした。
ただ、キャストが決まったからといって、その人に合わせてセリフを書き換えるようなことは、今回はほとんどありませんでした。ちょうどその頃に岸監督も参加されていたので、むしろ監督とのやり取りを通じて脚本をブラッシュアップしていった印象です。

和真と美令、二人の心の距離を映し出す
──本作は事件の真相を追うミステリーでありながら、和真と美令が相手を理解していく物語でもあります。演出で意識されたことはありますか。
監督:この作品の中心は和真と美令の物語です。容疑者の息子と被害者の娘という関係ですから、普通に考えれば、簡単には近づけない立場ですよね。でも、相手のことを知っていく中で、少しずつ見えてくるものが変わっていく。その変化を大切にしたかった。どちらか一方が相手を救うという関係ではなく、お互いが相手と向き合うことで、自分自身の中に新しい発見をしていく。そういう二人として描きたいと思いました。
──和真と美令が父親について語る喫茶店のシーンは、映画オリジナルの場面だそうですね。
監督:ここはかなり向井さんとやり取りをしました。
美令が和真に「父親と最後にした会話で自分が何と答えたのか、思い出せない」と話すと、和真が「そういう時は、相手の顔を思い浮かべるんです。言葉じゃなくて、表情。そんな風に父が教えてくれたことがありました」と答えます。それに関しては詳しい話をぜひ、向井さんに聞いていただきたいです(笑)。
向井:別にそんな大それたネタバラシというわけではないんですが(笑)、実はあのセリフ、『プライベート・ライアン』(1998)のオマージュなんですよ。あの作品の中にちょっと似た場面があって、それをオマージュとして入れてみたんです。「これ、誰にも分からないだろうな」と思いながら(笑)。
監督:ただ「アメリカの映画からパクった!」みたいになっても困るので、一度は僕から「このセリフ、やっぱりなくていいんじゃないですか?」と提案して、削ってもらったんですよね。
向井:そう、1回なくしたんですよ。でもその後、岸さんが「いや、やっぱりこれ、あった方がいいんじゃないか」と最後に言ってくださって。「あぁ、よかった!」と思ってまた元に戻したんです。「あのアイデアを買ってくれた!」とすごく嬉しかったですね。
監督:若い観客にも響くセリフかもしれないなと、改めて思ったんです。ここはぜひ、裏話としてお話ししておきたかったところです。

──完成した作品でこの喫茶店のシーンをご覧になっていかがでしたか。
向井:あのシーンは本当に良かったですね。松村さんと今田さんの二人だから成立した場面になったと思いました。『白鳥とコウモリ』はミステリーではありますけど、ミステリーだけではない。そこにある東野さんの魅力というものが、あの二人によってしっかり出ていると思いました。あのシーンを観た時に、「この映画は大丈夫だな」と思ったんです。もちろん、その後にいろいろな謎や展開があります。でも、それとは関係なく、この二人を最後まで見ていけると思えました。
──監督からご覧になって、松村北斗さん、今田美桜さんのお芝居はいかがでしたか。
監督:お二人とも、芝居は安定していました。現場では、段取りの時に芝居を確認して、本番ではそこからさらに深めてもらうという形でした。
今回はセリフも重要ですが、やはり表情がとても大切な作品だと思っていました。モニターを見ながら、自分自身が観客のように「心が動くか」ということを大事にしていました。松村さんは、表情の変化が本当に豊かでした。アップで撮っている時に、こちらの感情まで動かされる瞬間がいくつかあって、特にラストシーンの表情を見た時には、本当にすごいものを持っている役者だなと思いました。
今田さんにも、心を動かされる瞬間がありました。特に、目の表現が印象的でした。愛らしさ、美しさ、強さなど、同じ目でも感情表現によって全く違って見える。その多彩さには驚かされました。
──隅田川テラスで二人が向き合う場面も印象的でした。二人の距離感をどのように考えて撮影されたのでしょうか。
監督:原作にも隅田川テラスという場所が出てきますが、実際には両岸に広がっていて非常に広い。二人をどこに立たせるかによって、関係性の見え方は変わってくる。この作品は、物語の中で二人の関係や見え方が変化していく作品です。だから、きちんと目線を交わせる場所にしたかった。また、犯人の行動を考えると、明るい場所ではなく、少し影のある場所である必要もありました。
ロケハンではかなり歩きましたが、最終的にあの場所にたどり着きました。どちらかが上から見たり、下から見たりするような構図が可能な場所です。そこに撮影の羅偉恩(ウェイン・ロー) さんの設計が加わり、二人の感情と映像が重なる場所になったと思います。

