すべての“帰還”はここに続いていた──
必然とも思える、新たなステージへの挑戦(文・神武団四郎)
クリストファー・ノーラン13本目の長編『オデュッセイア』。ノーランにとって初の神話的ファンタジーだが、彼が最初にこの伝説の世界に取り組んだのは約20年前のことだった。初のメジャー作品『インソムニア』(02)を成功させたノーランは、『オデュッセイア』の前日談にあたる『トロイ』(04)の監督に抜擢されたのだ。最終的にスタジオ都合で途中降板を余儀なくされたノーランは、この出来事を『オデュッセイア』を撮った要因のひとつにあげている。しかし彼の作品を振り返るとこの叙事詩との共通点が実に多く、映画化に行き着いたのは必然とすら思えてくる。
ノーラン作品の特徴に時間を自由に行き来する非線形の構成がある。デビュー作『フォロウィング』(98)から多くの作品に採用し、時間を遡りながら進んでいく『メメント』(00)や正逆ふたつの時の流れを同時に描いた『TENET テネット』(20)のような変化球もある。『オデュッセイア』も現在と過去を行き来する構成で、オデュッセウスの現在と過去、その息子と3つの視点がやがて集約されていく『ダンケルク』(17)の原点ともいえる展開までみてとれる。多くの叙事詩で使われたイン・メディアス・レス(事件の真っ只中からの幕開け)も、ノーランが好んで使うスタイルだ。
冒険物語の始祖『オデュッセイア』で描かれるのは、故郷を目指す過酷な旅路。ホームカミングの物語は『インターステラー』(14)や『インセプション』(10)、『ダンケルク』のほか、秩序を取り戻す戦いを描いた「ダークナイト」3部作や真の自分にたどり着く『TENET テネット』など形を変えて描かれてきた。ノーラン作品の根底には帰郷というテーマが流れているのだ。
心の闇に囚われた男たちもノーラン作品に欠かせない要素。『フォロウィング』から『オッペンハイマー』まで、執着に突き動かされた男たちの姿が見て取れる。そんな彼らの武器が、機転や洞察力を含む知の力だった。蛮勇ぞろいの神話世界の英雄の中、腕力より知力で戦うオデュッセウス。戦争で心を病んだ彼が、旅を通し自制心や家族の愛を学ぶ物語はノーラン作品の核心でもある。原点回帰というべき題材に、全編IMAX®撮影という画期的スタイルで挑んだノーラン。映画界の頂点を極めた彼の新たなステージの第一歩に『オデュッセイア』は最適な題材なのである。
2800年の時を超え、伝説が極限の映像体験へ。

『インセプション』『インターステラー』『TENET テネット』など、常に映像表現の可能性に挑戦してきたクリストファー・ノーラン監督。アカデミー作品賞に輝いた『オッペンハイマー』に続いて挑むのは、約2800年前に誕生した西洋文学の原点「オデュッセイア」。トロイア戦争の英雄オデュッセウスが、故郷を目指して繰り広げる冒険と苦難を、長編映画史上初となる全編IMAX®撮影と世界各地での大規模ロケで壮大に描き出す。
キャストには、ノーラン作品初主演となるマット・デイモンのほか、トム・ホランド、アン・ハサウェイ、ロバート・パティンソン、ゼンデイヤ、ジョン・レグイザモ、サマンサ・モートンと若手からベテランまで豪華実力派が集結。スタッフにも、『オッペンハイマー』でオスカーに輝いた撮影のホイテ・ヴァン・ホイテマ、音楽のルドウィグ・ゴランソンらが名を連ねている。神々や怪物が待ち受ける世界でのスペクタクルと、故郷への帰還を目指す男の葛藤、希望を失わない家族たちの物語──原典に新たな解釈も加え、極限のドラマと映像世界を紡ぎ出す。
『オデュッセイア』
2026年9月11日(金)公開
アメリカ/2026/2時間52分/配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画
監督:クリストファー・ノーラン
出演:マット・デイモン、トム・ホランド、アン・ハサウェイ、ロバート・パティンソン、ルピタ・ニョンゴ、サマンサ・モートン、ゼンデイヤ、シャーリーズ・セロン
photo by Melinda Sue Gordon © Universal Studios. All Rights Reserved.
