原作の魅力を損なわずに、映画ならではの世界観へ──設定変更が生んだ広がり
──原作は藤まるさんの同名小説です。お読みになり、どんなところに惹かれましたか?
私たちが生きているこの現実・日常の中に、「死神のアルバイト」が存在するという設定そのものがすごく面白いなと感じました。その現実的な世界観と、ファンタジー要素のあるアルバイトという設定を、映画という物語の中にどう落とし込んでいくかという部分にとても興味が湧いたんです。
ですので、「死神」という言葉が持つ怪しさやワクワクする感じを、映画全体の世界観をはじめ、主人公である佐倉くんの心情の変化、さらには衣装デザインなどを通して丁寧に表現していきたいなと考えていました。
──「死神のアルバイト」という一見キャッチーな設定の一方で、物語の根底には「今をどう生きるのか」というテーマがあるように感じました。監督は本作をどんな映画にしようと思いましたか?
まさに今おっしゃっていただいたことこそが、この作品のテーマだと思っています。主人公の佐倉くんは、父親の逮捕や両親の離婚によって周りの見え方がガラリと変わり、大学を辞めようか悩んだり、恋人と別れざるを得なくなったりと、傷つく出来事が立て続けに起こっている状況にいます。「自分の人生は最悪だ」と投げ出したくなっている青年なんですね。
生きていれば、彼のように絶望してしまう瞬間は誰にでもあると思うんです。佐倉くんは「死神のアルバイト」と出会ったことで心構えや気持ちが変化していきますが、現実世界ではなかなか死神のアルバイトに誘われるような機会はありません。
だからこそ、今この現実が辛いと感じている方や、残酷だと思ってしまう状況にいる方々にこの映画を届けたかったんです。過去を変えることはできなくても「今をどう生きていったらいいのか」という少しの希望を感じてもらいたい。佐倉くんや花森さんの姿を通して、映画館を出た後に少しだけ世界が明るく見えるような、そんな作品にできたらいいなと思っていました。
──原作では佐倉と花森は高校生ですが、映画では大学生に変更されています。
この物語は学校内のシーンがほとんど出てこず、大半が学校の外で起きる出来事で構成されています。そのため、西畑(大吾)さんと福本(莉子)さんが演じるのであれば、高校生ではなく大学生の設定にした方がしっくりくるのではないか、という話し合いがあり、変更となりました。原作者の藤まる先生にもいいと思いますと言っていただけて、とても助かりました。
小説の中の佐倉くんも花森さんも、非常に感受性が豊かで大人びた考え方や感じ方をする人物です。そのため、「高校生だから/大学生だから」といった内面・心情的なアプローチを変える必要はありませんでした。サークルの集まりといった大学ならではのロケーションを使えるようになったり、「大学生ならもう少し遅い時間まで外で活動できるな」といった、設定面での自由度や広がりが生まれました。

