1992年の『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』を、現代の東京を舞台に再構築した『バッド・ルーテナント:トウキョウ』。小栗旬演じる刑事・矢吹恭二を軸に、日米のキャストが共演し、三池崇史監督がNEONをはじめとする海外の映画人たちとタッグを組んだ。俳優を“その役になれてしまう”状態へ導く演出、石塚の刺青に込めた意味、あえて見せないことで生まれる想像力、そして海外との映画作り。三池監督に、本作で挑んだ表現と映画への思いを聞いた。(取材・文/ほりきみき)

歌舞伎町の“裏側”に溶け込む

──本作は新宿・歌舞伎町を中心に撮影されています。監督にとって歌舞伎町は、これまでも撮ってきた街ですが、本作ではあらためてどんな街として描こうとされたのでしょうか。

三池:いや、もうむしろ「いつまで歌舞伎町なんだ」って話ですけどね(笑)。ネットドラマを見ても、舞台が歌舞伎町だったりすることが多いですが、あそこはある種の「夢」みたいな場所なんだと思います。古くは『ブラック・レイン』(1989)で大阪が描かれたときの、あのネオンがギラギラした特有の雰囲気とかと似ているのかもしれません。

ただ、今回の作品で描いた歌舞伎町は、いわゆるメインストリートがほとんど出てこないんです。実際に描いているのは「裏側」の空間で、ロケでもその裏路地などを使って撮影しています。ラストシーンの舞台も歌舞伎町の裏側ですしね。やっぱり、アンダーグラウンドで生きている人間たちには、表通りよりも、そういう場所のほうがふさわしいかなと思っています。

それに、歌舞伎町という街自体、昔に比べてロケができるようになってきたんですよね。今はちゃんと届けを出して、きちんと許可を取って撮影できるように変わってきた。だから、映画の撮影がやりやすくなったんです。

最近、歌舞伎町でロケをする作品が増えているのは、そういう背景があるからなんだと思いますよ。

──『初恋』(2020)では、歌舞伎町でロケをしているときに偶然きた消防車を撮影して、リアルな歌舞伎町を表現されたとお話しいただきました。今回は、そういったことはありませんでしたか。

三池:今回も時間が限られている中で、どうやって撮影していくか、という感じでした。それでも、撮影の前に散水車を使って、道路に水を撒いたりするわけです。歩いている人たちからすれば迷惑といえば迷惑でしょうけれど、でも、なんかイベント的に「なんだ、なんだ」という感じで、街の一部になれるんですよね。

面白いのは、誰も立ち止まって「なんだ、何やってんだ!」って、じっくり見たりしないんですよ。何が起こっても許されるような場所というか、いろんなことが起きる街だから、撮影をしていても「珍しいものを見る」という感じにならない。撮影自体が珍しいわけではないんでしょうけど、我々も含めて、歌舞伎町という街の中では、ごく自然な一部でしかないんですよね。

通常の街だと、肖像権の問題があるから、こっちもある程度気を遣わなきゃいけない。カメラを向けたときに周りの人がわーっと見てしまって、その人たちをフレームから外してもらうのが結構大変なんですよね。撮影時の労力の半分くらいは、そういう通行人の整理に使われていたりします。

だけど歌舞伎町は、「ほら、勝手にやってれば」みたいな感じで、いい意味で放置してくれる。「すいません、そこちょっと映り込んじゃうので避けてください」といったやり取りも一切ない。街の雰囲気にすっと溶け込める、数少ない不思議な場所ですよね。そういう人たちが集まっている場所だからこそ、すごくやりやすいんですよね。

画像: 歌舞伎町の“裏側”に溶け込む

海外との縁がつないだ、新しい映画の居場所

──本作は、撮影前の段階でNEONによる北米配給が決まるなど、日本映画としてはかなり特殊なプロジェクトだったと思います。今回の企画が実現するまでには、監督がこれまで海外の映画人たちと築いてきた関係や、さまざまなご縁があったのでしょうか。

三池:アメリカの映画界の面白いところは、すでに実績のある人材や人気のある作品・キャラクターなどを使ってドンと大作を作っていくアプローチと、比較的バジェットを抑えながら、新しい形を模索していくインディーズっぽい流れの両方があるところです。ただ、インディーズといっても、例えばA24なんかは「インディーズだ、インディーズだ」と言っているうちに、どんどんメジャーになっていって、流れも変わってくると思うんですよね。でも、そこからまた新しい人材が自分たちの動きを始めて……という風に続いていく。

自分の場合は、そうやってずっと継続して、いろいろな人とつながってきたというのがあります。それに、日本のプロデューサーが海外の映画会社と組んで、一緒に稼いでいくというか、新しい場を作っていくことが、これまで日本の映画界ではなかなかできなかったし、入り込めなかったんですよね。

でも今回は、日本のプロデューサーたちも頑張って、そこに魅力を感じて飛び込んでいってくれた。それはすごく大きいと思います。そして、そうした縁を今回もすべてつないでくれたのが、亡くなったジェレミー・トーマスという人です。この人は本当に僕らにとって、僕にとってもありがたい人で、「どこに、どういう可能性があるのか」が彼にはどう見えているのか、よく分からないんだけど、いつも引っ張ってくれて、いろんな人たちと出会える場を作ってくれました。

そもそも、ジェレミーと一緒にやることになったのも、日本国内では一部の人しか見ていないようなVシネマの存在があったからなんです。僕がローバジェットで作っていた当時の作品の『オーディション』(2000)や『IZO』(2004)などを、海外のインディーズ界隈や、映画学校の講義で見て「なんだ、この映画は!」と衝撃を受けたりした人たちがいて。そこで出会った人たちが、やがて成長して映画業界に入り、プロデューサーになって、「ああ、あの監督、まだ映画を続けてるんだ」「一緒にやってみたいよね」と言ってくれる人が、すごく多いんですよね。

そうした出会いの中でジェレミーとも出会い、今回はサム・プレスマン――オリジナル版を作ったプロデューサー、エドワード・R・プレスマンの息子ですが――との縁もできて、さらに彼らがこの企画を大きく広げていってくれた。

もちろん、そこにはある種の興行的な成功というか、リスクもあって、時には痛い目を見ることもあるわけです。ただ、自分はVシネマの時代から、かろうじて「傷を負っても致命傷にはならない」という規模感でやってきました。スタッフもみんな疲れ果てるけれど、また声をかけると集まってくれる。そういう関係性の中でやってきたんですよね。

そういう意味では、失敗も数多く経験しているので、割とタフに向こうともやっていけるのかなと。身の丈に合ったもので、本当に面白いものを作ればいい。特に今、アメリカの映画界も変わりつつあります。そういう中で、日本人と組んだ映画というものが、一つの居場所として作られればいいなとは思います。

ただ、それが「最大の目的」というわけではないんです。僕らはあくまで、一本一本作るプロセスが楽しければいいというスタンスなので。「結果的にこれで日本映画界を変えてやろう」とか、そういう野心のための道具として映画をやっているわけではない。野心といえば、「この作品が、自分たちにとって、とにかく面白いものになるかどうか」ということだけ。それができれば、より多くの人に見てもらえたら嬉しいなという、ただそれだけの感覚で、これまでやってきましたし、そのスタンスは今も全然変わりませんね。

画像: 海外との縁がつないだ、新しい映画の居場所

海外とのタッグで得た、トロントでの手応え

──今回のこの作品を通して、新しく感じた刺激や、得られたものはありましたか。

三池:この作品はトロント国際映画祭スペシャル・プレゼンテーション部門でワールドプレミア上映をしたんですけど、ものすごく異様な盛り上がりを見せてくれて。あの異様な盛り上がりというのは、例えば僕らでいうと、日本のオリジナルビデオで、ちょっとへんちくりんな作品を作ったときのような感覚に近いんです。向こうの人たちにとっては、そういうテイストそのものが「なんだこれ!」という感じで、カルト的に盛り上がってくれる。劇場の空気がものすごく熱くなるんですよね。そういう体験と同じものを、アメリカのチームと組んでも作り出せるんだ、という手応えを得られたのは、すごく大きかったし、嬉しかったですね。

「誤算」というほど大げさなものではないですけれど、「あんなふうに楽しんでくれるんだな」という発見がありました。こちらが無理にアメリカナイズされるわけではなくて、NEONならNEONという会社の作品の幅を広げていく。そういうスタンスで一緒にやれるんだな、やれる場があるんだなということが、今回ハッキリ分かったので。

あとはもう、「自分たちが実際にやれるかどうか」という、こちら側の問題ですよね。

画像: 海外とのタッグで得た、トロントでの手応え

<PROFILE> 
監督:三池崇史 
1960 年生まれ、大阪府出身。  
米国アカデミー会員。2024年にCAAとマネージメント契約を交わした。横浜放送映画専門学院(元⽇本映画学校)で学び、その後テレビドラマの助監督を担当。⼀⽅で井上梅次、野田幸男、恩地日出夫、今村昌平らの作品に演出部として参加。監督デビュー作は、1991年のOV『突⾵!ミニパト隊/アイキャッチ・ジャンクション』。1995 年には『新宿⿊社会 チャイナ・マフィア戦争』で劇場映画監督デビューを果たす。描く映像世界は海外からも高い評価を受けており、国際映画祭での受賞歴も多数あり。さらに2007年に『オーディション』がTIME誌ホラー映画ベスト25の⼀本に選出される。ジャンルを問わず精⼒的に映像制作を続け、ヤクザ映画から、アニメ、⼥児向け特撮テレビシリーズといった話題作を世に送り出すヒットメーカーである。作品本数は100を超える。英歌⼿・チャーリーXCX主演の新作ホラー「UNTITLED KYOTO MOVIE(仮)」の製作も進⾏中。

画像: 『バッド・ルーテナント:トウキョウ』三池崇史監督が語る、映画を面白くする“臨場感”と自由

『バッド・ルーテナント:トウキョウ』2026年10月23日(金)公開

画像: 予告60秒 映像解禁! 『バッド・ルーテナント:トウキョウ』10月23日(金)公開 www.youtube.com

予告60秒 映像解禁! 『バッド・ルーテナント:トウキョウ』10月23日(金)公開

www.youtube.com

<STORY> 
東京で、ヤクザを狙った連続猟奇殺人事件が発生。裏社会に渦巻く利権と複雑な人間関係が、捜査を阻んでいた。新たに事件の担当を命じられたのは、元組対(警視庁・組織犯罪対策部)の刑事・矢吹恭二。新宿・歌舞伎町で、汚職の噂が絶えず、酒、ドラッグ、賭博、暴力に溺れながら、自らの破滅へ突き進むかのように生きる男。刑事でありながら法を信じず、誰よりも深い闇を抱える矢吹は、着任早々、遺体に残された入れ墨を手がかりに身元を割り出し、ひとりの容疑者・石塚 満(間宮祥太朗)へとたどり着く。 
そんな矢吹の前に現れたのは、次期大統領の娘の行方を追ってアメリカから来日したFBI捜査官・グエン。彼女が追う失踪事件と、東京で起きた連続殺人。無関係に見えたふたつの事件は、やがてこの街の最深部で複雑に絡み合っていく―― 
東京の闇に堕ちた悪徳警官と、その運命を狂わせるFBI捜査官。正義と悪の境界が崩れ落ちるとき、彼らが最後に目にするものは、絶望か、それとも――。

<STAFF&CAST> 
監督:三池崇史 
脚本:天願大介 
出演:小栗旬 リリー・ジェームズ 間宮祥太朗 リヴ・モーガン 野村周平 西野七瀬 向里祐香 岩田剛典 渡邊圭祐 / 中野英雄 村上淳 國村隼 / 舘ひろし(特別出演) 
配給:【日本】ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 【北米】NEON 
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