アンソニー・ホプキンスインタビュー
“ 私はまだ引退する気はありません。私は老戦士ですからね”
── ご自身が適役だと思う理由を。
脚本がすばらしく、私の年齢も役に合いました。苦もなく理解でき、演じるのは簡単でしたよ。フロリアン(ゼレール)の脚本は会話型なのでセリフの暗記は大変ですけどね。
演じるのが簡単だったのは私自身がもうすぐ82歳(取材時点/現在83歳)だからです。『リア王』と同様、年齢的に合いました。だから苦労したのはセリフの暗記くらいです。まるで痛みのない手術を受けている気分でした
── 父親役を演じることについて。
「私は父を演じたんです。父は認知症ではありませんでしたが最後の数週はその兆候が見えました。心臓発作を起こしその1年後に亡くなったんです。1979年に発作を起こし少しずつ衰えていきました。
それでも頭は冴えていて口調もきつかった。死を恐れるあまりとても怒っていて、そういう彼の姿を覚えています。父の様子によく似ていたので、思い出しながら演じられて実に簡単でしたよ。模範解答みたいですが本当です」
── 脚本を担当したフロリアンとのお仕事はいかがでしたか?
「フロリアンは実に才能のある脚本家です。映画の監督は初めてなのにすばらしい仕事ぶりでした。2年前に彼と初めて会った時、アンソニー役は私のために書いた役だと言われました。すごく光栄に思いました」
── 認知症と死に関してどう考えていますか?
「この役を通して多くの学びと気づきを得ました。自分自身の人生の終わりを意識するようになり、命が美しいものに思えてきました。家具に当たる日の光のようにね。なぜ人は生きているのだろうか。自分の〝葉〞を1枚ずつ失うのはどんな気分だろうかと考えました。人生の勉強になりましたよ」
── 演技は老年期の健康につながるそうです。
「私はまだ引退する気はありません。私は老戦士ですからね。強くて生きる力がある。それに私はあれこれ考えたり分析せず、ただセリフを覚えて演じているのです。それが脳の活性化につながります。
私は暗記マニアでもあるおかげで脳が衰えません。シェイクスピアやエリオット、イェーツなど言葉にとても力がある詩を覚えてます」
── 老年期における演技へのアプローチを教えてください。
「私はいつも入念に準備します。柔軟にいろいろ試すタイプですが準備しなければ自由にやれません。社交を自制し、しっかりコツコツと準備するんです。それが私のやり方です。
経験を積んだ役者であれば特別な才能や努力は要りません。演技に悩んでいた若い頃はさまざまなメソッドを試しました。そういう試行錯誤を経て今では演技が楽になっています」
ファーザー
2021年5月14日(金)公開
ロンドンで独り暮らしをする81歳のアンソニー(ホプキンス)は、娘のアン(コールマン)が手配する介護人を頑なに拒否していた。そんな父にアンは、心から愛せる人と出会い、彼の住むパリへ引っ越すと告げる。
「見捨てるんだな」と憤慨するアンソニーに、独りにはしないと約束するアン。しかし、ある日、アンソニーが紅茶を淹れていると、リビングにアンの夫と名乗る男が座っている。
「ここはアンと自分の家だ」と言う男。今度は見たこともない女が現れ、アンとして話しかけてくる。現実と幻想の境界が崩れ、アンソニーは「正気を失いそうだ」と途方に暮れる──。
イギリス・フランス/2020/1時間37分
配給:ショウゲート
監督:フロリアン・ゼレール
出演:アンソニー・ホプキンス、オリヴィア・コールマン、マーク・ゲイティス、イモージェン・プーツ
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Photos by Getty Images