映画制作は、出来上がった作品を劇場で上映し、観客に見極めてもらってこそ完成を果たすことになる。昨年、コロナ禍でリモートでの映画祭開催を余儀なくされた、「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020」(以降、「SKIPシティ映画祭」)の短編部門入選作品として、審査員満場一致で、優秀作品賞を獲得した、『stay』という作品。短編でありながら、5月20日に閉館となってしまった「アップリンク渋谷」の最期を観とどけるがごとくの、一般上映も果たすという快挙に恵まれた。初映画監督として、手がけた作品が一挙に劇場公開までこぎ着け、奇しくも劇場閉館という場に居合わせる体験は、あまりに劇的である。そのことも気になって、インタビューしたくなったのが、この作品の藤田直哉監督だ。

タイミング良く、今年の9月に開催予定の「SKIPシテイ映画祭2021」に先駆けて、7月4日から18日まで、昨年の受賞作品や話題作をフィジカルな状態でのイベント上映が開催される。そこでの凱旋上映にも恵まれるという『stay』。また、地方での劇場上映も続いている。

モチベーションを下げることなく、コロナ禍も乗り越え、次世代の映画監督として前進する藤田監督。筆者の拙新刊『職業としてのシネマ 』(集英社新書)をいち早く読んでいただいていたので、映画の仕事と、その持続性などについて語ることが出来たことが嬉しい。

初めての映画作品は、好きに作られなくては映画ではない!?

「あ、そういえば、ご本、面白かったですよ。特に配給の仕事って知らないですからね。映画作ったら配給してもらわなくっちゃいけないのに、全然意識していなくて」

── ありがとうございます。配給のことを映画作る前に考える映画監督さんって、特に初監督を手がける方には少ないですね。映画を作るだけ作って、作った後はどうしたいのかしら、と思うこと少なくないですよ(笑)。

やはり、配給プロデューサーが、これは本気で劇場でみんなに観てもらいたいという映画作品に出会って、惚れ込まない限り、どんなに良い映画も世に出ませんから。そういう意味では、アルミードさんも、これからが楽しみな、無垢でピュアなものが感じられる藤田監督の作品に惹かれるものを感じられたんでしょう。初めて作る映画には、何か感じさせられるものがありますし。私の会社、巴里映画も初監督作品というのが多いんですよ。

「そうなんですね」

── ヴィルジニ・テブネ、ジェーン・カンピオン、ハリー・シンクレア、エンキ・ビラルなど、女優や俳優、劇画の世界などですでにキャリアを持っているクリエイターの初監督作品というのは、気になります。

で、凄い監督ばかりの名作を観てこられた、伝説的映画評論家の淀川長治先生に、そういう作品を試写で観ていただくわけですが、先生の感想は素晴らしいんです。けなすことがありませんでした。とるに足りないというようなこともおっしゃらないんです。「好きに撮っているね。好きに作っていなくては映画じゃないからね」と。

「凄いですね、それって」

── 今回の『 stay』も、まさしくそうではないでしょうか。欲を出したりしないで淡々と撮った良さが前面に出ている。みんなで、好きに作っているから撮っている現場の空気に嘘がない。そこに惹きつけられて観てしまうというような。

「ありがとうございます。そうかもしれないです。でも、次回は少し欲も出してビジネス的なことも意識して取り組もうかと」

画像5: 『stay』場面写真

『stay』場面写真

短編の長編化は考えないで、次のテーマは「不倫」

── じゃあ、いよいよ本作の長編化でしょうか。そもそも短編を作ることは、言わば、長編作品のPV的な映像を作るということ。

長編を作るための、慧眼のプロデューサーを募るツールでもある。巴里映画でも、1994年に、フランスのコメディアン、パトリック・ブシテー監督作品『つめたく冷えた月』というフランス映画を配給・公開し、予想を超えたロングランヒットになりました。

この作品は、同名の短編を観た、あのリュック・ベッソン監督がプロデュースを引き受けた作品です。完成して、カンヌ映画祭のオープニングの招待作品にまでなったんです。

「それがですね、ご期待に添えずで、別物を長編で考えていまして(笑)。テーマは不倫」

── そうでしたかー。でも、それは、それで。

「金子と組んで不倫ものにチャレンジしようかと」

── それじゃあ、助成をエストニアに頼んだらいいですよ。一度レクチャーを受けたことがあり、あそこの国のロケーションを使うことも条件の一つですが、エストニアの古き良き街並みは実に美しい。空気が澄んでいるというか、ロマンスが生まれるのにぴったりですよ(笑)。

常に映画製作には新しい企画を求めていて、日本との合作も大歓迎だそうです。応募もかなり「楽ちん」ですよ。脚本の前段階で審査してくれるんです。エストニアの首都のタリンで毎年、「タリン・ブラックナイト映画祭」というのを開催していますよね。

過去、日本映画もいくつか出品されていますね。昨年の映画祭にリモートでご招待していただきました。クリストファー・ノーラン監督の『TENET テネット』(2020)も、エストニアで撮影されたそうです。

「あ、それいいですね。ご紹介お願いします」

持続可能にしたいミニシアターと映画制作

── それにしても、ミニシアターがコロナの打撃も影響は大きいでしょうが、閉館するのはとても残念です。「アップリンク渋谷」では、何か作品を観ていましたか?

「一番印象に残っているのは、ヴェレナ・パラヴェル、 ルーシャン・キャステーヌ= テイラー共同監督作品『リヴァイアサン』(2012)です。

私が東京に来た頃には、シネセゾン系の映画館は、もうなくて、シネマライズには行っていました。バウスシアターの爆音映画祭にもよく行きましたが、もうどちらも無いですね」

── どこの映画館も独特のカラーがあって、無くなると寂しいですね。コロナ禍のミニシアターエイドは2ヶ月近くで3億円近く集まったとのことで、話題になりましたけれど、映画館の持続可能は、映画監督たちが生み出す映画がなくては成り立ちません。

藤田監督は次世代を担う監督として、これから活躍していかれるわけですが、映画は持続可能だと思いますか?

「持続可能にするためには、このままではいけないと考えています。テクノロジーが発達して機材の性能が上がり、簡単に映像を撮れ、誰もが映画を撮れるようになり商業・自主問わず、ミニマムなスタッフでの撮影が増えていると思いますが、映画はいろいろな人が多数関わって制作されていったほうが良いと考えています。

多数の人間が関わって、そこに発生する総合的な表現や予期しない、偶発的な表現の出会いを楽しむのが映画だからと考えるからです。

なので、スタッフや演者、関係者全員にリスペクトを持って映画制作をして、初めて力を発揮されることになるので、それぞれの力を発揮してもらう為に、制作環境を良くし、整えることが必須です。

日本は、映画を含む映像制作の環境が欧米諸国に比べて、あまり良くないと思います。パワハラや、長時間労働、現場を主に支えているフリーランスの制作者たちの立場の弱さなど。

映画づくりを持続していくには、環境を変えることを制作者ももちろん、関係者が声を上げ続ける必要があると考えます。」

── なるほど。素晴らしいお考えです。映画製作にかかわる、多くの職業の人たちが一丸となって作り上げるのが、映画であるということにおいては、過去の名作を生み出せた「仕組み」は、普遍的で良いのではないかということを、若い方から教わることは、とても嬉しい思いです。

映画監督は王様ではなく、社長の様なもの

── そして、最後の質問となりますが、拙新刊の4章の表題に掲げました、「映画監督は王様である」ということ、映画監督をめざす、藤田監督としてはいかがお考えでしょうか?

筆者の私としましては、これは投げかけであって、王様なのか?という意味も含めたフレーズなんですが。

「個人的には、監督は「王様」である、ということには同意できません(笑)。王様というワードは、「権力者」という印象が強いからですかね……。

私が考えるに、監督は映画を文字通り「監督」するのであり、命令して行動させたり、強制させたりする職業ではありえません。

一般的的に監督といえば、偉い感じがしますが、そんなことは全くないと私は考えます。作品の全ての責任者という感じですかね。

どちらかというと「社長」というニュアンスのほうが、私には合っているかもしれません。

なぜ監督を職業にしていきたいか、というと、自分はまだ監督になっているという感覚はないですが……、監督になりたいのは、全ての部門に触れられることが楽しいからだと思います。例えば、映画といってもいろいろな「部」がありますよね。

脚本から始まって、撮影部、録音部、俳優部、美術部、etc……。すべてのことに関われることが、そして色々なことを知ることが出来、楽しいからだと思います。学ぶことがあまりにも多すぎますね(笑)。映画の全ての責任を負う為に、全てのことを勉強していかなきゃなと思いました」

普遍的な映画作りを引き継いで、持続可能な映画の存在を牽引してくれそうな、骨太の精神に貫かれている印象を与えてくれた、藤田直哉監督。

今回の映画制作に取り組んだ数か月は、ルーティンワークはいっさいしないで、全集中して完成させたという。そのためにも、自分はフリーランスの映像クリエイターというスタンスを選んでいるのだと。ちなみに映画プロデューサーは映像関係の会社の経営者であるそうだ。

映画を作るための、ルーティンワークの足固めも必要であることを語った。

次なる長編の作品に取り組んで、どんなことを学ぶのか。その開花が待ちきれない。

おせっかいな筆者に限らず、こんな監督のチームには年長の輩が手を差し伸べたくなるのも道理ではないだろうか。きっと、行く先にはビッグな力を持った存在も待っているはずだ。グッド・ラック!

画像: 映画『stay』 本予告 youtu.be

映画『stay』 本予告

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『stay』

〇SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021プレイベント上映
2021年9月に予定のSKIP国際Dシネマ映画祭2021の開催に先駆け、7月の週末5日間(4日、10日、11日、17日、18日)昨年映画祭で上映した全24作品をSKIP映像ホールでガラ上映!
18日16:00より、『stay』上映後、監督・プロデューサー登壇のQ&Aセッションあり)

〇元町映画館 7月10(土)から16(金)まで/シネ・ヌーヴォ、 アップリンク京都 、あつぎのえいがかんkiki 他各地方映画館にて、近日上映予定

第17回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭 短編部門 優秀作品賞
第20回TAMA NEW WAVE ある視点部門
第15回大阪アジアン映画祭 協賛企画

監督/藤田直哉
プロデューサー/井前裕士郎
脚本/金子鈴幸
出演/山科圭太、石川瑠華、菟田高城、遠藤祐美、山岸健太、長野こうへい、 金子鈴幸ほか
製作/東京藝術大学大学院映像研究科 
助成/芳泉文化財団助成作品 
配給/アルミード
2019年 /日本 /カラー /シネマスコープ/DCP/39min
©東京藝術大学大学院映像研究科

公式ツイッター/@stay_film2021
公式Facebook/@stayfilm2021

〇拙連載筆者の拙新刊『職業としてのシネマ』は、集英社新書より発売中!

集英社新書
https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1066-f/

株式会社巴里映画ホームページ
http://www.pariseiga.com/pariseiga/company.html

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