第74回カンヌ国際映画祭 オフィシャル・セレクション「カンヌ・プルミエール」部門 選出
── 齋藤プロデューサーから見た細田監督はどんな方ですか?
最近すごく感じるのは、ものすごくアグレッシブな人だということです。お互い人生の半分を生きて、残りの人生であと何本映画が作れるか、そんなことを考える時期になっています。ヒット作が出たら、続編という考え方もあるけれど、細田監督はそういうことは考えない。
『竜とそばかすの姫』もそうですが、どんどん移り変わる現代を描きつつ、でも変わらないものってあるよね、という気持ちを大切にして映画を作るのが彼のスタイルです。そのスタイルを大切にしながら、同じものは2度と作らないという考え方なので、毎回すべてが一からのスタートです。
うまくいったノウハウを使ってやれば楽なのにとも思うけれど、それをしないのが細田守です。スリリングで刺激的でおもしろみもあるけれど、“もうちょっと楽をさせて”と、思うこともあります(笑)
── それでも、監督のやりたいことに寄り添うのですね。
自分も負けず嫌いだし、誰もやったことのない環境や仕組みを作りたいという気持ちがあります。細田監督が作る作品から刺激を受けていることも事実です。どんなに作品が評価されても、いつまでもチャレンジャーという姿勢は素晴らしいと思うし、尊敬しています。
ずっとチャレンジャーでいてほしいという気持ちもありつつ、10年後もその精神で前を向いていたらと想像すると、65歳でもチャレンジ精神があるのはすごいことだけど、ついていけるかなという不安が過らなくもないです。
── 監督は『未来のミライ』(2018)が大きな変化をもたらしたとおっしゃっていました。『竜とそばかすの姫』に国内外からのクリエイターが多数参加したこともそのひとつだと。
『未来のミライ』は、作ってよかったと心から思っている作品です。構想段階から、絶対作ろうと思っていたし、傑作になるという確信がありました。細田守という映画監督のフェーズが変わる作品になると強く感じました。
でも、『竜とそばかすの姫』を作りながら感じたのは、『未来のミライ』はフェーズが変わるきっかけの作品だったということ。そして『竜とそばかすの姫』こそが監督としての細田守に大きな変化をもたらすと思っています
── 細田監督の集大成のような作品と言われているのもそう感じる理由のひとつでしょうか?
『竜とそばかすの姫』には、インターネット、女子高校生、家族など、これまでやってきた作品のモチーフがたくさん入っているので、集大成と捉える方も多いかもしれません。でも僕自身は、集大成というよりも今まで以上に“新しさ”を強く感じています。
コロナ禍でインターネットの世界は8年から10年進んだとも言われています。予期せず変化した世界の価値観に耐えられる作品になっているうえに、監督の経験値をすべて入れ込み、一大エンターテイメント作品に仕上げているところは、やっぱりすごいと思いました。
大人でさえ、未来が見えにくくなった今、これから先をどのように生きていけばいいのか。子どもや若者がどう未来を肯定すればいいのか。何が大事なのかを考えたとき、それは自分だということを気づかせてくれます。アイデンティティを確立し、バイタリティを持って、誰かと一緒に生きていくことが、これからの未来を作ることになる。未来を肯定できるメッセージが詰まった作品に仕上がっています。
── 齋藤プロデューサーが思い描くスタジオ地図の未来を教えてください。
『竜とそばかすの姫』がもたらす結果がどうであれ、今までと同じではいられないという気持ちがあります。創立10周年はそういうことを考えるべき時期だと思います。
5年10年先を見据えて大きな変化をすべきときだと考えているので、『竜とそばかすの姫』を世に送り出したら、監督とこれからのスタジオ地図についてじっくりと話し合うところからはじめたいと思います。