第34回東京国際映画祭2021のコンペティション部門で、みごと観客賞受賞。加えて、コンペティション部門初のスペシャルメンションを、フランスの女優、イザベル・ユペール審査委員長から贈られた、松居大悟監督最新作『ちょっと思い出しただけ』(2021)。30年以上の時を経ても、多くの映画監督やクリエイターからリスペクトされ続ける映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991)と、監督のジム・ジャームッシュへのオマージュともいえる日本映画の誕生だ。このコロナ禍が続く、今の私たちに希望と勇気を与えてくれ、珠玉の宝物のようだ。多くの想いを胸にこの作品を完成させ、映画が持続可能であることを目の当たりにもさせてくれた松居大悟監督にインタビューすることが出来た。
カバー画像:©︎2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会 ©︎E-WAX

世界の危機の時、逆境の時に燃える

── なるほど。考えすぎかもしれないですが、この作品が一年ごと巻き戻されていく、時を遡っていくというスタイルは、当時のジャームッシュに遡っていく想いの象徴でもあるのではと受け止めたりしたのですが。

ああ、そこまでは考えていなかったですが、それはとても素敵ですね。そう想像したりしていただけて嬉しいです。

── あと、このコロナ過が続く中、本作の前に、昨年は『バイプレイヤーズ ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』(2021)『くれなずめ』(2021)が制作・公開され、実に精力的ですが、そのエネルギーはどこから出てくるんでしょうか?

自分の周りには演劇関係の知り合いも多く、コロナで活動が出来なくなったりして、落ち込んでいる。そういう事態には、自分は何というか、だからこそ作りたいと思ってしまうんです。逆境に強いというか、追い込まれれば追い込まれるほどアドレナリンが生まれてくるんで、書いたり、撮ったりしました。でも、その想いを汲んでくれる製作委員会にも支えられて感謝です。

画像: 世界の危機の時、逆境の時に燃える

── いやー、人のために役立ちたいというお気持ちの持ち主であるということなんですね。

何か、こう、クサっているのが嫌いというか……。

── ああ、そうですよね。クサっている時間があったら、次のことをした方がいいみたいな……。

そうです、そうです。

── ポジティヴなんですね。だから、こういう大変な時期でも前向きにとらえることが出来て、着想のきっかけにも出来るということですね。コロナの猛威を逆手にとれるパワーです。

そうであれば良いですね。

俳優志望から演劇に、そして映画

── ところで、昨年には、パルコ劇場で、演劇『Birdland』までも上演していらっしゃる。映画と演劇との距離感とか、温度差というものを意識して取り組まれているんですか?

映画はなんでも、きっちり「決めて」作られていく芸術なんだと思います。その点、演劇は「決めない」で、完全に具象化する必要がなく、ある空間を作って、観客が俯瞰して想像して成り立つみたいな創造性があると思います。今のところは、ですが。と言うのも、少し前は、映画は「時間を描く」、演劇は「空間を描く」というように思っていましたが、今はそうは思わないで、映画も空間を描けるし、演劇も時間を描けると思うようになっていて……。

── おお、せっかくの名言も変わっていく(笑)、んですね。

演劇は生でやり直しがきかないから大変ですね。失敗が許されない……。

いや、失敗しても演劇だと、それも演劇なんだと観客が思ってくれますから、失敗も正解になるんです(笑)。

── そういうことなんですね!?(笑)。そもそも、映画と演劇、どちらから始められたんですか?

演劇です。大学一年の時に演劇サークルに入っていまして。課外活動棟で劇を作って公演もしていました。

── そうだったんですね。じゃあ、今のように演出したりして。ご出演もされていた?

むしろ出演が多かったですね。もともとは役者志望でしたから。作・演出は一年に一回くらいで。

── そうなんですか。じゃあ、ジャームッシュ監督も多くの映画作品に出演されていますし、松居監督もどんどん、ご出演されたらよろしいでしょうね。

お呼びがかかれば、いつでも(笑)。

画像: 俳優志望から演劇に、そして映画

(インタビューを終えて)

柔和な面持ちで、淡々と適切に言葉を選んで語って下さった松居監督。

前向きな生き方をしているからこそ、運にも縁にも恵まれているのだなと痛感させられ、お話していると、何だか幸せな気持ちになれたインタビューであった。

『ちょっと思い出しただけ』の主人公、照生を演じた池松壮亮が、全編実に温和で優しく演じ切った「いい男」は、監督自身とダブる。

そのこともうかがってみたら、照れていらしたが、監督の演技も観てみたいものだ。

また、この作品をジャームッシュ監督が観たら、なんというのだろうか。とても興味深い。

「30年後にこの作品へのオマージュを試みる、若い監督が現れることを願っています」などと、またまた監督が照れるようなことを言って、インタビューを終えたのだったが、人間的色気のある松居監督に惚れていく人々は、これからもどんどん増えていくことだろう。

心優しい気持ちが全編に溢れる『ちょっと思い出しただけ』は、間違いなく、今の時期に役立つワクチンのような作品だ。

映画の最後に「ナイトオンザプラネット」の曲が流れるやいなや、ワクチン効果で、涙が溢れ出る。

『ちょっと思い出しただけ』
2022年2月11日(金・祝)全国公開

画像: 映画『ちょっと思い出しただけ』90秒予告【2022年2月11日(金・祝)】公開 www.youtube.com

映画『ちょっと思い出しただけ』90秒予告【2022年2月11日(金・祝)】公開

www.youtube.com

出演:監督・脚本:松居大悟
出演:池松壮亮 伊藤沙莉
河合優実 大関れいか 屋敷裕政(ニューヨーク)/ 尾崎世界観
渋川清彦 松浦祐也 篠原篤 安斉かれん 郭智博 広瀬斗史輝 山﨑将平 細井鼓太
成田凌 市川実和子 高岡早紀 神野三鈴 菅田俊 鈴木慶一 / 國村隼(友情出演)/ 永瀬正敏

主題歌:クリープハイプ「ナイトオンザプラネット」(ユニバーサル シグマ)

制作・配給:東京テアトル 宣伝:FINOR 制作プロダクション:レスパスフィルム 
製作:『ちょっと思い出しただけ』製作委員会(東京テアトル ユニバーサル ミュージック)
2021年/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/115分
©2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

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