かつてこれほどまでに海外評価の高い作品があっただろうか──。昨年、ひと足先にカンヌ国際映画祭で公開された『ドライブ・マイ・カー』は脚本賞を受賞。その後、ゴールデングローブ賞の非英語映画賞を受賞。そして、作品賞、監督賞、国際長編映画賞、脚色賞とアカデミー賞でも台風の目に!(文・まつかわゆま、よしひろまさみち/デジタル編集・スクリーン編集部)

『ドライブ・マイ・カー』ストーリー

文・まつかわゆま

画像: 『ドライブ・マイ・カー』ストーリー

舞台俳優で演出家の家福。妻である脚本家の音と幸せに暮らしていたが、ある日、音は秘密を残して、この世からいなくなってしまう。二年後、家福は広島の演劇祭で多言語版「ワーニャ伯父さん』を演出することになる。送迎のため、みさきが家福の車を運転することになり……

濱口竜介監督の凄さと、各地映画賞での輝かしい受賞歴

2021年度は濱口竜介監督の年だった。2020年のヴェネチアで脚本を担当した『スパイの妻〈劇場版〉』が銀獅子賞を受賞し、2021年2月のベルリンで『偶然と想像』が銀熊賞を、そして5月のカンヌで脚本賞・国際映画批評家連盟賞・エキュメニカル審査員賞・AFCAE賞を受賞したのが『ドライブ・マイ・カー』である。

カンヌでは3種類の日報星取り表で上映日から最後まで最高点をとり、記者と評論家の支持がどちらも高かった。最終日、授賞式に呼ばれたと聞いたときは、パルムか、せめてグランプリか⁉と日本人記者団は色めき立った。結果は日本人初の脚本賞だったが、他に三賞を獲得と聞いた時には、前代未聞と舞い上がった。

その後、本作は各地映画賞76のノミネート中55の受賞(2022年1月23日 IMDB調べ)という快挙を成し遂げ今も快進撃中。ゴールデングローブ賞で受賞したのは非英語映画賞だが、LA・NY・全米の批評家協会賞では作品賞他を受賞。12月にはアメリカでの劇場公開も始まり、アカデミー賞作品賞ノミネートの条件も整った。国際長編映画部門と作品賞のダブルノミネートも可能だ。国内でも、毎日映画コンクールの大賞を始め、日本アカデミー賞を8部門、日刊スポーツ映画大賞、などを受賞している。

なぜここまで評価されるのか。喪失からの再生、赦し、癒しなどのテーマはどの国の観客にも届くものだし、手話も含め多言語を使った演劇の稽古というモチーフは、演ずるということや芸術と表現についての考察を世界の批評家や俳優自身にも訴えかけることになる。

緻密に組み立てられた脚本、俳優を大事にしながら監督のアーティスティックな意図を発揮させた演出。透明感のある映像、耳を澄まさせる音響。緊張感を持続させながら包み込むような優しさも感じる、いつまでも浸っていたい世界…。それは今コロナ下の分断をやむなくされた世界で、物語に求められるもの。それがここにあった、のである。

それぞれが傷を抱える、4人の主要キャラクターたち

家福悠介(西島秀俊)

画像: 家福悠介(西島秀俊)

多言語で『ゴドーを待ちながら』やチェーホフなどの古典を上演する試みで評価される演出家であり舞台俳優。愛する妻の音と満ち足りた日々を送っていたが、ある日、音の秘密を知ってしまう。愛車サーブを運転しながら音の吹き込んだテープを聞いてセリフを覚える習慣がある。

家福 音(霧島れいか)

画像: 家福 音(霧島れいか)

家福悠介の妻。脚本家。セックスの後に物語を夫に語り、翌日夫に語り直してもらい脚本にするという習慣がある。ある日秘密を残し、突然、この世からいなくなってしまう。

渡利みさき(三浦透子)

画像: 渡利みさき(三浦透子)

広島の演劇祭事務局が家福の送迎のため用意した寡黙な専属ドライバー。北海道の実家を出た後、広島でゴミ収集車の運転手などをしていたが、演劇祭のドライバーに転職。

高槻耕史(岡田将生)

画像: 高槻耕史(岡田将生)

俳優。音の書いた脚本の作品に出たことがあり、音のファンになる。ある日、音の紹介で家福悠介に出会う。家福が演出を担当する広島演劇祭のオーディションに応募する。

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