「くまモン」の生みの親であり、映画『おくりびと』(08)の脚本家として知られる小山薫堂氏。その小山氏が日本特有の入浴行為を文化の一つとして捉え、2015年に提唱した「湯道」をテーマに完全オリジナル脚本で映画化したのが『湯道』です。銭湯を営む実家を飛び出したものの、うまくいかず舞い戻ってきた主人公・三浦史朗を演じるのは生田斗真。銭湯を継いだ弟・三浦悟朗を濱田岳が演じます。監督は『HERO』『マスカレード』シリーズを手掛け、群像劇を得意とする鈴木雅之。公開を前に小山薫堂氏と鈴木雅之監督にお話をうかがいました。(取材・文/ほりきみき)

俳優としての存在感のある人をキャスティング

──主演は生田斗真さんですが、キャスティングはどのタイミングでされたのでしょうか。

小山:脚本開発と並行して、キャスティングも進めました。途中からあて書きになった部分もあります。

鈴木:まずは企画が立ち上がり、話の大まかな方向性が決まって、キャスティングを行う。キャストありきで進められる企画が多くなってきている中、この作品は正しい道程を経た気がします。

画像: 三浦史朗(生田斗真) ©2023映画「湯道」製作委員会

三浦史朗(生田斗真) ©2023映画「湯道」製作委員会

──史朗を作っていくにあたって生田さんとはどのような会話を交わされましたか。また、生田さんから何か提案などありましたでしょうか。

鈴木:生田斗真はとにかくいい奴なんですよ。彼はジャニーズ事務所に所属していますが、完全に演技部ですよね。役者としてなかなかの経験を持っているので、脚本を読んで掴んでくるものがしっかりしている。顔合わせにも史朗のイメージをしっかり作ってきてくれました。史朗はこの物語を通じて変わっていく。人間としての成長なので、掴みやすかったようです。

僕からは「最初はしゃらしゃらした奴でいこうぜ」と話をしたことを覚えています。それを聞いて生田さんも「しゃらしゃらですね」と言っていました。

──濱田岳さんが生田さんのことを「演技は勿論、現場での振る舞いやスタッフさんへの気配りも素晴らしい。やっぱりこういう方が、主演をされるんだなと、改めて思わせてくれました」とコメントされていますが、その点に関しては監督からご覧になっていかがでしたか。

鈴木:懐の深さを感じましたね。今回は出演者が先輩方ばかり。リスペクトをしつつも緊張することはなく、緩やかな雰囲気を保っていたのは彼の役者力なのでしょう。人間力ともいえるかもしれません。

画像: 三浦悟朗(濱田岳) ©2023映画「湯道」製作委員会

三浦悟朗(濱田岳) ©2023映画「湯道」製作委員会

──濱田岳さんは弟の悟朗を演じています。監督がこれまでに撮られた『本能寺ホテル』、『マスカレード・ホテル』にも出演されていました。

鈴木:濱田岳は貴重な役者で、彼の世代であの感じを出せるのは彼しかいない。彼がいなくなったら日本の映画界は大騒ぎになりますよ。僕としても岳くんがいてくれるとほっとする。いい役者です。今回の役どころは内向的で真面目な役を演じてもらいましたが、彼自身は大らかで、役へのアプローチも性格同様に大らかです。変に捻っている感じではなく、素直にやってくれました。

──生田斗真さん、濱田岳さんのことで印象に残っていることはありますか。

鈴木:まず顔が違いますよね(笑)。こんなに顔が似ていない兄弟はいないだろうと突っ込まれることを覚悟しつつ、どう見てもキャラクターが違いそうな2人が兄弟というところがいいんじゃないかなと。ほかのみなさんもそうですが、俳優としての存在感のある人をキャスティングしたのです。

画像: 中央は秋山いづみ(橋本環奈) ©2023映画「湯道」製作委員会

中央は秋山いづみ(橋本環奈) ©2023映画「湯道」製作委員会

──史朗と悟朗。兄弟なので、音を聞いたときに四郎と五郎かと思っていました。

小山:『おくりびと』でうちの家を建ててくれた建築家の名前を使ったら賞が取れたので、「湯道」でも登場人物の名前を決めるときに「建築家の名前を使おう」と思って、数寄屋建築で名高い建築家の三浦史朗さんの名前からいただきました。

でも、長男なのに「しろう」って変ですよね。そこでお母さんは登場しませんが、裏設定として名前を「みつこ」としました。お父さんを「じろう」にして、家族で2、3、4、5となるように両親が子どもの名前をつけたことにしました。

鈴木:この人、「何、その話」というのが多いんですよ(笑)。

──本作は兄弟の確執がメインストーリーですが、さまざまな夫婦や家族の在り様が描かれていました。

小山:銭湯を舞台に、『タンポポ』(1985年)がやりたかったというのが大きかったですね。さまざまなお風呂でいろいろな人が人生と向き合っている。それがラストに向かって1つに集結していく。お風呂の価値観の多様性を見せたかったのです。

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