日常にあるお風呂として銭湯を舞台に
──「湯道」は小山さんが「日本人特有の入浴行為は、一つの文化としてきっと世界に発信できる」と信じて、2015年に立ち上げたとのことですが、何かきっかけがあったのでしょうか。
小山薫堂(以下、小山):2012年に京都の下鴨茶寮を引き継いだのですが、そこは茶人の方が集まってよく茶会が行われており、私もお茶の世界に触れるようになりました。作法を通じてお茶を味わうことは芸術を知るきっかけになり、それが精神的な癒しにもなる。素晴らしいと思いました。お茶が「道」になることでこんなことが起きるのであれば、自分の身近な暮らしの中に他にも何かあるのかもしれない。自分は子どもの頃からお風呂が大好きだったので、「日本人の入浴という習慣も道になるのではないか。道になったらもっともっと海外の人に日本の魅力を伝えることができる」と思ったのです。
──湯道をテーマにした映画を企画したのはなぜでしょうか。
小山:長崎に廃業した銭湯があり、それを見たときに物語が作れそうな気がしたのです。知り合いのプロデューサーに「湯道をテーマに映画を撮りたい」と話をしたところから、企画として動き出しました。最初は中国の富豪を主人公にして物語を考えていたのですが、鈴木監督に引き受けてもらうことが決まった辺りで、違う物語にすることになっていきました。
鈴木雅之監督(以下、鈴木):初めは、ひょんなことから中国に行ってしまった人の原点を探るという、なかなか壮大な話でしたね。その後、シナハンと称した温泉&銭湯巡り旅行に数人で行き(笑)、メシを食い、お酒を飲むうちに変わっていきました。
──なぜ、温泉ではなく、銭湯を舞台にされたのでしょうか。
小山:温泉も銭湯も好きですが、映画で取り上げるのなら日常にあるものにしたかったのです。温泉は日常生活の中にあるものではありませんからね。