主演男優賞
コリン・ファレルとブレンダン・フレイザーが一騎打ち?
主演男優賞の候補者全員がオスカー初ノミネート揃いとなったのは88年ぶりのこととか。そのフレッシュな顔ぶれの中で、注目されるのが『イニシェリン島の精霊』のコリン・ファレルと『ザ・ホエール』(2022)のブレンダン・フレイザーの激突だろう。前者は昨年のカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞。後者はベネチア国際映画祭で絶賛された。余命が短いことを知り、疎遠になっている娘との関係を修復しようとする体重272キロの男を演じたフレイザーは、かつて『青春の輝き』(1992)や「ハムナプトラ」(1999)シリーズなどで人気男優だったが、長いブランクを経て、今回大きなイメージチェンジを成功させ、奇蹟の復活を遂げたことから最有力とされているが、先般のゴールデングローブ賞は逃してしまった。
一方で長年の飲み友達に絶縁された気のいいアイルランド男の困惑を演じ、他に『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)『アフター・ヤン』(2022)『13人の命』(2022)と3作品の好演も加味されるかもしれないファレルが、ゴールデングローブ賞も受賞していて形勢逆転か、という見方もある。
また『エルヴィス』のオースティン・バトラーも伝説のロックの神様の半生を熱演し、ゴールデングローブ賞の他、各映画賞の新人賞を次々受賞していて侮れない存在に。黒澤明監督の名作『生きる』(1952)を英国でリメイクした『生きる LIVING』(2022)で、公園の設立に心血を注ぐ役人を演じたベテラン、ビル・ナイの名演も観る者の心を揺さぶる。と、ここまでは前評判通りにノミネートされた4人だが、サプライズ・ノミニーとなったのが『aftersun/アフターサン』(2022)でヒロインの記憶の中の父親を好演したポール・メスカル。『グラディエーター』(2000)続編の主人公にも選ばれた期待の新人だが、今後注目するべき人だろう。一方で久々の主演男優賞候補入りかと噂された『トップガン マーヴェリック』のトム・クルーズらが落選となった。
助演男優賞
奇蹟の復活劇を果たしたキー・ホイ・クァンが鉄板!
混戦模様を呈している他の部門と違って、この部門では『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のキー・ホイ・クァンが鉄板。今回アジア系の俳優が演技部門で複数ノミネートされるオスカー史上初の事態が起きているが、さらに『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)や『グーニーズ』(1985)などの子役出身だった彼は、演技界を一時引退し、裏方に回っていたブランクを乗り越え、51歳で華麗なるカムバックを果たすという意味でも業界内の喝采を受ける存在。全米各州の批評家賞も独占状態で間違いなしの本命だ。
対抗となるのは『イニシェリン島の精霊』のブレンダン・グリーソン。昔ながらの飲み友達に急に絶縁を突き付け、復縁を図ろうとする友人に対し衝撃的な行動に出る頑迷な男に扮し、キャリア最高の演技を見せる。同作からは警官の父親から虐待される変わり者の隣人を演じる若き個性派バリー・コーガンもノミネートされた。新たなくせ者アクターの彼は今後何度もノミネートされるような俳優になるかもしれない。
このほかサプライズ候補と言われる2人も注目。まず『フェイブルマンズ』のジャド・ハーシュ。本作では主人公の父を演じたポール・ダノが有力と思われていたが、わずか数シーンに登場した遠縁の伯父さん役のハーシュが候補に。彼は1980年の『普通の人々』以来、42年ぶりのノミネートで、これは2度目までの候補期間の記録ということだ。
サプライズのもう一人が『その道の向こうに』(2022)のブライアン・タイリー・ヘンリー。自分の運転事故で片脚と親族を失った男を好演し実力発揮といったところ。黒人男優としては今回彼が一人だけ演技部門候補者となった。ほかにノミネート有望といわれていた『グッド・ナース』(2022)のエディ・レッドメインらが落選。この部門もハーシュ以外は全員初ノミネート。