灰原哀自身にも大事に思うものができてきた
──かつて黒ずくめの組織の一員であった灰原哀にフィーチャーした物語ということで、「灰原哀」「宮野 志保」「シェリー」の3つの顔が登場します。灰原哀を描く上で意識したことはありましたか。
灰原にとってコナンは大きい存在になっています。コナンの声を聞いたときの安心感。姿を見たときのホッとした感じ。灰原が女性エンジニアに伝えたメッセージも彼女自身の言葉にはなっていますが、コナンが以前、灰原に言ったことと同じような内容です。そういう風に気持ちが繋がってきているのはコナンだけでなく、博士や蘭姉ちゃん、子どもたちに対しても同じ。みんなが灰原のことを大事に思っていることを本人が受け止め、灰原自身にも大事なものができ、本人も気づかないうちに、みんなと生きたいと思うようになっていた。今回のことは灰原がそれを再確認する出来事になったと思います。
──それは脚本だけでなく、作画でも意識されていますね。
灰原は普段、あまり表情を出さないので、表情づけがすごく難しいキャラクターです。でも、映画では普段見せない顔も見せる。その辺りはすごく気を使いました。
今回の映画ではコナンの主人公感を強く打ち出したいと思っていました。コナンと灰原が海の中にいるシーンは当初、脚本にはありませんでしたが、コナンの強さや引っ張っていく力を表現したいと思って後から加え、そこに青山先生にも手を入れていただき、あの形になりました。海の中ですからお互い言葉は発しませんが、表情で語り合っています。2人が暗い海から浮びあがってくると月や星が幻想的にキラキラしていますが、灰原にとってコナンの存在は希望、憧れに近い感情にもなっていることも表現しています。
──『名探偵コナン ゼロの執行人』ではコナンを光、安室透を闇として描いたとのことでしたが、本作でもコナンと灰原哀は何かメタファーがあったのでしょうか。
『名探偵コナン ゼロの執行人』のときは2人を対比させる必要があったので、そういう演出を多めに取り入れていました。
しかし、コナンと灰原の関係性は今まで描いてきたものを踏襲しています。今回の作品で、特にコナンに関しては何も変わっておらず、いつも通り真っ直ぐで、あの強さを持っていますから、メタファー的なことはしていません。
──強さといえば、蘭のアクションは見応えたっぷりでした。
やっているアクションとしては過去の派手路線よりは抑え目にして、地に足がついたアクションとして描きました。ただ、今回は灰原が相当なピンチに陥り、「哀ちゃんを助けなきゃ」という強い気持ちで蘭は行動を起こしているので、観客は気持ちが入ってしまうのだと思います。
『名探偵コナン 黒鉄の魚影(くろがねのサブマリン)』公開中
<STORY>
東京・八丈島近海に建設された、世界中の警察が持つ防犯カメラを繋ぐための海洋施設『パシフィック・ブイ』。本格稼働に向けて、ヨーロッパの警察組織・ユーロポールが管轄するネットワークと接続するため、世界各国のエンジニアが集結。そこでは顔認証システムを応用した、とある『新技術』のテストも進められていた―。
一方、園子の招待で八丈島にホエールウォッチングに来ていたコナンたち少年探偵団。するとコナンのもとへ沖矢昴(赤井秀一)から、ユーロポールの職員がドイツでジンに殺害された、という一本の電話が。不穏に思ったコナンは『パシフィック・ブイ』の警備に向かっていた黒田兵衛たち警視庁関係者が乗る警備艇に忍び込み、施設内に潜入。すると、システム稼働に向け着々と準備が進められている施設内で、ひとりの女性エンジニアが黒ずくめの組織に誘拐される事件が発生…!さらに、彼女が持っていた、ある情報を記すUSBが組織の手に渡ってしまう…。
海中で不気味に唸るスクリュー音。そして八丈島に宿泊していた灰原のもとにも、黒い影が忍び寄り…
<STAFF&CAST>
声の出演:高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、林原めぐみ ほか
原作:青山剛昌「名探偵コナン」(小学館「週刊少年サンデー」連載中)
監督:立川 譲
脚本:櫻井武晴
音楽:菅野祐悟
制作:トムス・エンタテインメント
配給:東宝
© 2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会