灰原哀に黒い影が忍び寄る。史上最大の危機にコナンは自らの危険も顧みずに立ち向かう。『名探偵コナン 黒鉄の魚影(くろがねのサブマリン)』は東京・八丈島近海に建設された海洋施設『パシフィック・ブイ』を舞台にコナンと宿敵・黒ずくめの組織の対決を描きます。メガホンを託されたのは『名探偵コナン ゼロの執行人』(2018)を大ヒットに導いた立川譲監督。キャラクターの心理描写の細やかさに定評のある立川譲監督がいかに灰原哀を描いたのか。劇場版は原作に対してどのような立ち位置にあるのか。作品に対する思いを語っていただきました。(取材・文/ほりきみき)

フィルムスコア方式で劇伴を作った菅野祐悟

──今回の舞台は海の上に浮かぶパシフィック・ブイ、『名探偵コナン ゼロの執行人』には東京湾の統合型リゾート施設エッジ・オブ・オーシャンが出てきました。監督は海がお好きなのでしょうか。

多分、アニメーターで海を描きたい人は少ないと思います。海に入るとキャラクターは漂っていて、常に服や髪がなびかないといけません。重力が軽くなるので、少し動いたら反動であちこち動く。それもちゃんと表現しないと不自然に見えてしまいますから、陸上を描くよりも作画が難しくなってしまうのです。しかも、この作品は海の中で移動しているシーンが多いので、カット数も結構多かった気がします。

櫻井さんの元々のプロットでは今回も埋め立て海洋施設のはずでした。しかし、それだとエッジ・オブ・オーシャンと被ってしまいますし、『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』(2016)もそういう感じの場所でした。世界中の警察が持つ防犯カメラを繋ぐ施設を陸地に作っても構わないのですが、この作品では黒ずくめの組織が潜水艦に乗って悪巧みをしてくるので、絵面的に陸地と潜水艦では見映えや見せ方が難しい。アニメーターとしては、海は全然好きじゃないですが(笑)、自分から海洋施設を提案しました。

──『BLUE GIANT』で音作りを経験されたことがこの作品に反映されていますか。

ドラマやキャラクターの心情の変化に合わせて音楽が転調したり、変化したりすると見ている人はキャラクターの感情に寄り添いやすいと思っています。今回の作品は特にメインのキャラクターの心情に寄り添って、惹きつける強さが欲しい。菅野(祐悟)さんに映像をお渡しして、フィルムスコア方式の劇伴をお願いした部分があります。そういったことは『BLUEGIANT』の経験が活きていると思いますね。例えば、灰原が危機に陥るシーンはコナンの動きに合わせてすこし転調させ、ターボエンジン付きスケートボードで海の上を走っていたコナンが海の中に入ったときは曲調を変えています。

コナンの映画はサスペンスタッチでアクションがあり、しかも壮大なところや感動できるポイントもあり、一辺倒の作品ではありません。菅野さんはアクションをきっかけに使う楽器を変えたり、効果を載せたりと飽きさせないように変化をつけて、そのすべてに合わせてくれる。すごいですよね。経験が物語っているのか、使っている楽器もすごく多い。これまであったコナンのいいところを活かしつつ、ご自身の色も入れる。とても非常に引き出しの多い器用な音楽家さんだと思いました。

画像: フィルムスコア方式で劇伴を作った菅野祐悟

──主題歌をロックバンド「スピッツ」が担当し、新曲「美しい鰭」が書き下ろされました。

まずスピッツさんに書いていただけるということに驚きました。しかも、こういうサスペンスタッチの作品ですから激しめなロック調の曲がくるかと思いきや、すごく優しい曲調だったのでびっくりしました。しかし改めて聞いてみると八丈島の美しい景色とも調和している。感情が揺さぶられる系の映画はこういった曲で締めて、余韻を楽しんでいただくのがいちばんだと思いました。

──これから作品をご覧になる方にひとことお願いいたします。

推理パートやサスペンスタッチのシーン、そして笑いどころ、泣きどころもあって、エンターテインメントとして一本まとまった感じのフィルムにしました。キャラクターの関係性が今までの作品よりも多いのですが、いろんなキャラクターの活躍を描き、関係性が一段上に上がった感覚になれると思います。何度か繰り返し、見ていただけるとうれしいです。

お客さんにはいろんな楽しみ方をしていただけるよう、先程、ラージ・フォーマットのMX4Dのチェックをしてきましたが、揺れのポイントやストロボ、水しぶきといったものとも親和性の高い作品です。また違う体験もできますから、そういった形でも見ていただけるとうれしいです。

PROFILE
監督 立川譲(たちかわ ゆずる)

1981年生まれ。日本大学芸術大学卒業。アニメ制作会社マッドハウスに入社。マッドハウス在籍時より演出を手がける。その後、フリーランスとなり、「BLEACH」「キルらキル」「進撃の巨人」など数多くの人気アニメ作品の絵コンテや演出を担当。2016年から放送の「モブサイコ」シリーズでは第1期から2期まで監督を務め、3期では総監督を務め、今年2月公開の映画『BLUE GIANT』でも監督を務めている2018年には第22作の劇場版「名探偵コナン ゼロの執行人」を監督し、本作がシリーズ2作目。

『名探偵コナン 黒鉄の魚影(くろがねのサブマリン)』公開中

画像: 劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』予告【2023年4月14日(金)公開】 www.youtube.com

劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』予告【2023年4月14日(金)公開】

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<STORY>
東京・八丈島近海に建設された、世界中の警察が持つ防犯カメラを繋ぐための海洋施設『パシフィック・ブイ』。本格稼働に向けて、ヨーロッパの警察組織・ユーロポールが管轄するネットワークと接続するため、世界各国のエンジニアが集結。そこでは顔認証システムを応用した、とある『新技術』のテストも進められていた―。

一方、園子の招待で八丈島にホエールウォッチングに来ていたコナンたち少年探偵団。するとコナンのもとへ沖矢昴(赤井秀一)から、ユーロポールの職員がドイツでジンに殺害された、という一本の電話が。不穏に思ったコナンは『パシフィック・ブイ』の警備に向かっていた黒田兵衛たち警視庁関係者が乗る警備艇に忍び込み、施設内に潜入。すると、システム稼働に向け着々と準備が進められている施設内で、ひとりの女性エンジニアが黒ずくめの組織に誘拐される事件が発生…!さらに、彼女が持っていた、ある情報を記すUSBが組織の手に渡ってしまう…。

海中で不気味に唸るスクリュー音。そして八丈島に宿泊していた灰原のもとにも、黒い影が忍び寄り…

<STAFF&CAST>
声の出演:高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、林原めぐみ ほか
原作:青山剛昌「名探偵コナン」(小学館「週刊少年サンデー」連載中)

監督:立川 譲
脚本:櫻井武晴
音楽:菅野祐悟
制作:トムス・エンタテインメント
配給:東宝
© 2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会 

公式サイト:https://www.conan-movie.jp/

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