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名監督たちから愛され“繊細かつ大胆” “しなやかで力強い”女優に成長
「シャルロット・ゲンズブールは彼方に光る神秘的な星だ」
18歳の彼女をこう評したのは、初主演作『なまいきシャルロット』(1985)の監督、クロード・ミレールだ。
『なまいきシャルロット』(1985)
当時14歳だったシャルロットがセザール賞新人賞を受賞。何事にも不安定な年頃のシャルロットは同じ年の天才ピアニスト少女と出会い、憧れとも嫉妬ともつかない感情に揺れる。シャルロットの初々しさが光る。
© TF1 FILMS PRODUCTION – MONTHYON FILMS – FRANCE 2 CINEMA
シャルロットは1971年7月21日、フランスの国民的歌手セルジュ・ゲンズブールと英国の女優ジェーン・バーキンの娘としてロンドンで生まれた。才能豊かな両親の下、パリで育った彼女は13歳の時、カトリーヌ・ドヌーヴの娘役を演じた『残火』(1984)で映画初出演。翌年、『なまいきシャルロット』(1985)でセザール賞有望若手女優賞を受賞すると、あどけない表情とナイーブな佇まいが注目を集め、“シャルロット・ブーム”を巻き起こす。
そんな彼女を父・セルジュは溺愛。親子デュエット曲「レモン・インセスト」の発表に続き、監督・脚本・音楽を担当した映画『シャルロット・フォー・エヴァー』(1986)では親子共演したが、いずれも近親相関的な内容が批判を浴びることに。だが後に、シャルロットは父を擁護する発言をしている。
『ブッシュ・ド・ノエル』(1999)
20代のシャルロットがセザール賞助演女優賞を受賞。母の2度目の夫の葬式に集った三姉妹。彼女たちには各々悩みを抱えていたが、クリスマス前にさらなるトラブルが発生する。シャルロットは三女役を好演。
そんなセンセーションを巻き起こした父が1991年に急逝した後も、シャルロットは名監督から引っ張りだこ。タヴィアーニ兄弟監督『太陽は夜も輝く』(1990)、フランコ・ゼフィレッリ監督『ジェイン・エア』(1996)、パトリス・ルコント監督『フェリックスとローラ』(2000)…。その積み重ねが『ブッシュ・ド・ノエル』(1999/『午前4時にパリの夜は明ける』のエマニュエル・ベアールと姉妹役で共演)でのセザール賞助演女優賞受賞につながった。
同じ頃、シャルロットは人生のパートナーに巡り会う。その相手とは、『愛を止めないで』(1991)で共演したイヴァン・アタル。2人はその後も『シャルロット・ゲンズブール/愛されすぎて』(1992)、『ラブetc.』(1996)、『ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール』(2001/アタルが監督も兼任)などで共演。今は3人の子にも恵まれ、「結婚」という形はとっていないが、良好な家庭を築いている。
『アンチクライスト』(2009)
30代となったシャルロットが挑んだ問題作でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞。幼い息子を事故で失った夫妻。次第に精神を病んでいく妻を治療するため、セラピストの夫は人里離れた山奥の小屋に二人で閉じ籠る。
© Zentropa Entertainments 2009
そして、俳優業の転機となったのが、鬼才ラース・フォン・トリアー監督との出会いだ。初顔合わせとなった『アンチクライスト』(2009)では、幼い息子を亡くして悲しみに沈む母親を、大胆な性描写を交えて熱演し、カンヌ国際映画祭女優賞を受賞。過激な作風でしばしば物議を醸すトリアーだが、シャルロットは「素晴らしい役をくれる」と信頼を寄せ、以後も『メランコリア』(2011)、『ニンフォマニアックVol.1/Vol.2』(2013)に出演している。
デビュー当時、「内気な少女」だったシャルロットは、こうして経験を積み、人生を歩む中で次第に逞しさを身につけていく。だが、異父姉・ケイトの死をきっかけにパリの喧騒を避けてニューヨークへ移住するなど、繊細さも失っていない。
『母との約束、250通の手紙』(2017)
女優として円熟してきた40代のシャルロットがセザール賞主演女優賞候補となった感動実話もの。息子がいつか仏軍で英雄となり、作家として成功することを信じ続けた母親の強すぎる愛の真意を熱演する。
© 2017-JERICO-PATHE PRODUCTION - TF1 FILMS PRODUCTION - NEXUS FACTORY - UMEDIA
繊細かつ大胆。しなやかで力強い。それが、長い時間をかけて培われてきた女優シャルロットの持ち味と言える。『母との約束、250通の手紙』(2017)で演じたのは、貧困から這い上がる中、1人で息子を育て上げる逞しいシングルマザー。それまでの集大成のような役で、3度目のセザール賞主演女優賞候補になった。
そして、『午前4時にパリの夜は明ける』では人生の挫折を経験し、子どもたちに支えられながら、新たな一歩を踏み出そうとする優しさに溢れた主人公を繊細に演じている。同じ母親でも『母との約束、250通の手紙』とは対照的だが、あらゆる役をこなす柔軟さこそ彼女の魅力だ。
俳優業ではハリウッドからやや距離を取りつつ、母同様ファッションアイコンとしても人気で、父の死後、中断していた歌手活動も再開するなど、両親の遺伝子を受け継ぎ、自分らしい道を歩むシャルロット。かつて「神秘的な星」と呼ばれた彼女は、それから30年以上を経た今も、まばゆい輝きを放ち続けている。
『午前4時にパリの夜は明ける』
フランス/2022/1時間51分/配給:ビターズ・エンド
監督:ミカエル・アース
出演:シャルロット・ゲンズブール、キト・レイヨン=リシュテル、ノエ・アビタ、メーガン・ノータム、エマニュエル・ベアール
© 2021 NORD-OUEST FILMS - ART FRANCE CINÉMA