岡田准一へのリスペクトが駄々洩れだった綾野剛
──工藤を追い詰める矢崎を綾野剛さんが演じています。綾野さんとは何作も組んでいますね。
工藤と矢崎は水と油のような関係です。そのコントラストをどう出すかというときに、岡田さんとは初めてですから、もう一人は信頼のおける方にお願いしたかったのです。
また、個人的に“狂った剛さん”が見てみたかったということもあります。剛さんは『ヤクザと家族 The Family』(2021)で出会い、俳優の素晴らしさや深みを教えてくれた兄貴みたいな存在です。『ヤクザと家族 The Family』でアイロニーな役、「新聞記者」(2022)では葛藤する官僚を演じてもらいました。剛さんとは今後も映画を作っていくでしょう。40代になられて「俳優人生第2章」とおっしゃる剛さんに思いっきり行き切ってクレイジーな役をお願いしたらどんな風に見せてくれるのだろうと思ってお願いしたところ、「あいよ~、任せて」といった感じで受けていただけました。すごかったですよね。
──『ヤクザと家族 The Family』では綾野さんとかなりディスカッションをされたとうかがいましたが、今回はいかがでしたか。
今回は主演ではないということもあるのですが、『ヤクザと家族 The Family』のように脚本に対してディスカッションをすることはなく、むしろ純粋に岡田さんとの共演が楽しみだったでしょうし、藤井組で振り切ったアクションエンタメが撮れるのも楽しみにしてくださっていた気がします。
──完成披露舞台挨拶で綾野さんが「准一さんへのリスペクトが役を通して漏れてしまわないかが心配でした」と語っていました。実際、現場ではいかがでしたか。
演じていないときは駄々洩れしていましたね(笑)。アクション練習している岡田さんをニコニコしながらずっと見ていました。真逆な役どころですが、カットが掛かると岡田さんに対する気持ちが素直に出てしまう。そして「用意、スタート」の声が掛かると狂暴な矢崎に豹変する感じでした。
剛さんだけでなく、みなさんがオンオフをしっかり付けながら、楽しく撮影できた気がします。
──綾野さんが岡田さんと2人でいるときはいかがでしたか。
ご本人たちと近いようで離れていて、離れているようで近い役どころ。セッションを楽しんでいるイメージでしたね。アクションは入念に2人で手合わせをしていて、40代の先輩たちの本気を現場で観れた気がします。締めるところは締めて、芝居は凄く緊張感がありましたが、カットが掛かると2人で笑い合う。僕らにも兄弟のように接してくれる。本当に優しいお兄さんたちで、現場はとても楽しかったです。
──撮影で苦労したシーンはありましたか。
ほぼ全シーン、苦労しました。冒頭の雨のシーンは雨降らしで雨を降らしているところに雪が降ってきたのです。不思議な光景でした。1月ですから寒いし、雪が降ってきたので路面は凍結するし…。「雪を雨で融かしてくれ」といってスタッフを困らせました(笑)。岡田さんはクランクインから大雨のシーンだったのですごく寒くて大変だったと思いますが、文句1つ言わずにずっと付き合ってくれました。
この作品はアクションエンタメで、車はいっぱい壊すし、変なものは落ちてくるし、砂埃は舞うし、適当にやっていいシーンが1つもない。その目的は工藤や矢崎にどれだけ高い壁を作るかということ。壁があるからそこから逃げ出そうとするし、それを叩き壊そうとする。そういう場を作ることに対して、今回はすごくこだわって、ロケ地を選び、美術を用意してもらったので、1つ1つのハードルがすごく高かったですね。工藤がダクトをくぐり抜けるシーンも大変でした。
──ダクトの中が埃だらけでリアル感がありました。
あのシーンは岡田さんがすごく咳き込んでいて申し訳なかったです。
埃だらけの岡田さんは時代劇ではあったかもしれませんが、現代劇ではしばらく見たことがなかったと思います。ある種、愚かでみじめですが、岡田さんが演じるとキュートに見える。撮っている僕らは楽しかったです。