作品にリアリティを感じさせた広末涼子と柄本明
──工藤の妻を広末涼子さんが演じています。工藤を見つめる表情から工藤に対する気持ちが伝わってきました。
広末さんにお願いしたのはプロデューサーの提案です。広末さんは僕にとっては天井人。プロデューサーから名前が挙がったときには「出てもらえるのですか!」と思わず確認してしまいました。お子さんがいらっしゃるので地方ロケは厳しいのではないかと勝手に思い込んでいたのですが、快諾していただけて本当にうれしかったです。
だらしない夫にただ寄り添う嫁という構図はよくありますが、広末さんはちゃんと夫を嫌悪してくれました。しかも、その根源として“こんな人を選んでしまった自分への怒り”という内省が感じられる。これはセリフでは表現できません。すごくリアルな夫婦として作品の中に存在してくれました。
──工藤と電話で話すシーンが素晴らしいですね。
人間って完ぺきではない。愚かだし、失敗もする。しかし、それを受け入れてこそ自分なんだなということを広末さんが表現してくれました。
工藤が電話で「今年はよくなる気がする」と言いますが、僕はあの言葉が大好きで、初詣に行くたびに言っています。今、振り返ってみると、他の作品でもそういうことを言っていました。
──柄本明さんの飄々とした表情が印象に残りました。柄本さんが仙葉組の組長を演じたことで、この作品においてどのような意味が生まれたと考えていらっしゃいますか。
柄本さんは僕の商業映画監督デビュー作である『オー!ファーザー』にも出ていただいたので、10年ぶりでした。僕は人と会うときに緊張しても、自分の言葉でちゃんと話をしたいと思っているのですが、『オー!ファーザー』の衣装合わせで柄本さんに会ったときは“目の前にあの柄本明がいる”というだけで緊張してしまい、生まれて初めてフリーズしてしまったのを覚えています。
今回は“緊張していてもしょうがない”と捨て身でいったら、楽しくお話ができました。現場で「すみません、ここ、もう一度お願いします」というのは申し訳なくて、本当は言いたくないけれど、緊張しつつもお願いしたこともありましたが、快く対応してくださいました。
この作品では狭い町の中にいる黒幕的な役どころを演じていただいていますが、欲深さをとてもいい塩梅で出してくださいました。町の象徴というか、“こういう人って絶対にいる”というリアリティが作品から感じられます。さすが柄本さんです。素晴らしかった。最高でした。
──ラストが韓国版とは違いますが、そこには監督のどんな思いがあるのでしょうか。
オリジナルを見たとき、「ラストが大事ではないんだろうな」と思いました。「では最後って何なんだろう?」と自分の中で考えたとき、「本当に最後まで行ってほしい」と思ったのです。
日の出の時間を狙ったので、何日かに分けて撮りました。撮影はクリスマスの時期でしたから、ものすごく寒かった。でもみんなで朝日を待つのは、文化祭の準備をやっているような気分で楽しかったです。
──編集で苦労されたところはありましたか。
今回はあまりないんです。東宝さんから「120分、超えませんよね?」と何度も確認されて、「超えねぇよ、うるさいなあ(笑)」と思ったくらいですね(笑)。こんなにスムーズに進んだ編集も珍しいです。
編集期間が長かったことがあるかもしれません。相棒の(編集担当の)古川(達馬)と作っていきましたが、編集したものをみんなに見せるたびに的確なフィードバックを返してくれるチームなので、作品がどんどんよくなっていっている実感がありました。
今まで自分が作ってきたものは答えがないものや自分の中に答えを見つけてもらうものが多かったのですが、今回は“とにかく楽しんでほしい”という気持ちで作った作品でしたから、編集もすごく楽しかったです。
──最後に岡田さん、綾野さんの注目してほしいシーンを教えてください。
1つに選べないほどたくさんあります。僕は普段、あまり笑ったり泣いたりしないのですが、結婚式の綾野さんが大好きで、思い出すだけで笑ってしまいます。岡田さんに関しては、工藤が渡された指名手配犯の顔写真を見て、それが轢き殺してしまった男だと気がついて動揺しているときに同僚から「知っているんですか?」と言われて、首をぷるぷるっと赤ちゃんみたいに振る所がすごくかわいくて気に入っています。絶対に知っている奴が見せる顔で、そういうときに人ってああなってしまうという感じがしっかり出ていました。
岡田さんはとにかく一生懸命でキュート。それにクレイジーな剛さん。そこを楽しんでいただければと思います。
<PROFILE>
監督・脚本:藤井道人
1986年8月14日生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。大学卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(14)でデビュー。以降『青の帰り道』(18)、『デイアンドナイト』(19)など精力的に作品を発表。『新聞記者』(19)は日本アカデミー賞で最優秀賞3部門含む、6部門受賞をはじめ、映画賞を多数受賞。以降、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20)、『ヤクザと家族 The Family』(21)、「アバランチ」(21/CX)、「新聞記者」(22/Netflix)、『余命10年』(22)、『ヴィレッジ』(23)と話題作が次々に公開。
『最後まで行く』5月19日全国東宝系にてロードショー
<STORY>
年の瀬の夜。刑事・工藤(岡田准一)は危篤の母のもとに向かうため、雨の中で車を飛ばす。
心の中は焦りで一杯になっていた。
さらに妻から着信が入り、母が亡くなった事を知らされ言葉を失う。
――その時。彼の乗る車は目の前に現れた一人の男をはね飛ばしてしまった。
必死に遺体を車のトランクに入れ立ち去る。そして母の葬儀場に辿り着いた工藤は、
車ではねた男の遺体を母の棺桶に入れ、母とともに斎場で焼こうと試みた。
――その時、スマホに一通のメッセージが。
「お前は人を殺した。知っているぞ」 腰を抜かすほど驚く工藤。
「死体をどこへやった?言え」
メッセージの送り主は、県警本部の監察官・矢崎(綾野剛)。
追われる工藤と、追う矢崎。果たして、前代未聞の4日間の逃走劇の結末は?
<STAFF&CAST>
監督:藤井道人
脚本:平田研也、藤井道人
音楽:大間々昂
出演:岡田准一、綾野剛
広末涼子、磯村勇斗
駿河太郎、山中崇、黒羽麻璃央、駒木根隆介、山田真歩、清水くるみ
杉本哲太/柄本明
配給:東宝
© 2023映画「最後まで行く」製作委員会
公式サイト:https://saigomadeiku-movie.jp/