生田斗真のキャスティングが磯村勇斗、門脇麦に繋がった
──主演の生田斗真さんはかなり早い段階で決まったのですね。キャスティングの決め手はどういったことでしたか。
岩切という人を決めないと脚本が先に進めなかったのです。
生田さんはラブストーリーをやれば、コメディもやる。多種多様なキャラクターを演じることができるカメレオン俳優です。岩切は地味な公務員というおじさんの役で、生田さんがこれまで演じてきた役とはかなり違いますが、僕としては以前、『人間失格』を見て、生田さんなら岩切という主人公が持つ、顔の表情に現れない想いや苦悩など、内面に潜んでいるものを体現できると思い、出演交渉を長谷川さんにお願いしたところ、1週間くらいで快諾していただけたのです。
生田さんが岩切を演じることが決まったことで磯村勇斗さん、門脇麦さんが決まりました。生田さんが岩切を演じるというのはとても力強いキャスティングになりました。
──実際、初めて生田さんと顔を合わせたときはいかがでしたか。
まずは僕や白石さん、長谷川さんが、“岩切はこういう人です”、“こんなことをやってほしいのです”といったことをわーっと喋りました。生田さんはそれを強い眼差しで見つめ返しながら一生懸命に聞いてくれている。その目を見て、“彼なら岩切としていける”と僕は思いました。
ただ、こちらが一方的に話し、生田さんからは特に具体的な質問がなく、あまりの勢いに引かれてしまったのではないかと心配になりました。3人で帰りながら、「最後は『よろしくお願いします』という挨拶で終わったし、ここまで来て断られることはないよね?」と話したのを覚えています。
──監督からは具体的にどのようなお話をされたのでしょうか。
僕の父も公務員だったので、公務員の生活、いわゆる9時から5時の生活がどういうものかをお伝えしました。また、父は家庭の事情があって大学進学を諦め、家族のために働いてきた人でしたが、そんな父にもきっと、自分のやりたいことがあったと思います。そういったことが岩切に何かフィードバックできることがあるかもしれません。それを僕なりに生田さんに伝えてみました。
──岩切の演出はどのようにされましたか。
このシーンはこういう芝居をしてほしいという話は一切していません。それでも生田さんは役としての岩切をすっと掴んで、テストの段階で体現してくれました。本番では目の微妙な上げ下げ、語調の強弱をちょっと直すくらい。本来は笑顔が似合うチャーミングな方ですから、今回は演じ辛いのではないかと心配しましたが、まったく問題ありませんでした。過度に語らず、過剰な演技もしませんが、岩切がそこにいて、毎日、水を止めて回っているんだなということをちゃんと見せてくれました。
──監督からご覧になって生田さんの俳優としての魅力はどんなところでしょうか。
元々、実力のある方だと思っていましたが、表情、特に目で、うちに秘めた感情を語ることができる稀有な俳優さんだと改めて感じました。生田斗真という俳優はこれからも日本の映画やドラマを背負っていく人になるのではないでしょうか。
この作品にとって、生田さんはとても大切なキャスティングでした。生田さんが決まったから、この企画は動き出しましたし、出来上がったものを見ると、この作品を生田さんにお願いして本当によかったと思います。
『渇水』2023年6月2日(金)全国公開
<STORY>
日照り続きの夏、市内には給水制限が発令されていた。市の水道局に勤める岩切俊作(生田斗真)の業務は、水道料金滞納家庭や店舗を回り、料金徴収と、水道を停止すること【=停水執行】。貧しい家庭を訪問しては忌み嫌われる日々であった。俊作には妻と子供がいるが別居中で、そんな生活も長く続き、心の渇きが強くなっていた。ある日、停水執行中に育児放棄を受けている幼い姉妹と出会う。自分の子供と重ね合わせてしまう俊作。彼は自分の心の渇きを潤すように、その姉妹に救いの手を差し伸べる―
『渇水』
原作:河林満「渇水」(角川文庫刊)
監督:髙橋正弥
脚本:及川章太郎
音楽:向井秀徳
企画プロデュース:白石和彌
出演:生田斗真、門脇麦、磯村勇斗、山﨑七海、柚穂/宮藤官九郎/宮世琉弥、吉澤健、池田成志、篠原篤、柴田理恵、森下能幸、田中要次、大鶴義丹/尾野真千子
配給:KADOKAWA
2023/日本/カラー/ヨーロピアンビスタ/100分
©「渇水」製作委員会
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/kassui/
2023年6月2日(金)全国公開
※山崎七海の崎は立つ崎(たつさき)が正式表記
※高橋正弥の高は、はしごだかが正式表記