生田斗真が演じることになって、映画のラストが見えた
──原作者の河林満さんのご友人から映画化の相談をされたことが企画のきっかけとうかがいました。
河林さんの三回忌が終わった頃、2011年1月くらいでしたが、河林さんの飲み友達だった方からお話があり、原作を読みました。その頃は貧困や格差が露呈してきて、社会問題となってきていましたが、描かれているのは1990年代のバブルの末期でしたが、まだ割と豊かな時代であったはず。すでに貧困や格差で苦しむ人がいたことに驚いただけでなく、原作の中にネグレクトの要素が描かれていたので、今も通用する内容だと感じ、映画として作ってみたいと思いました。
市井を生きている人たちの悲哀とそこに生きる人々を見つめる視線に魅力がある作品ですが、姉妹は不幸な結末を迎えます。ヨーロッパにはそういった終わり方をする作品もありますが、自分がこの小説を手掛けるとするならば、希望を感じる結末にしたい。そのことをご遺族の方にお伝えして許可をいただき、このような物語として作品にしました。
──では最初からラストを変えることで進められてきたのですね。
脚本をお願いした及川(章太郎)さんには「ラストは変える」と伝えた上で、打ち合わせを始めました。それから間もなく、東日本大震災が起こったのです。普通の生活に重くのしかかる災害や差別も大きな要素になり、大人たちのシステムに取り込まれていく子どもたちの存在を顕在化させたいと思いました。初稿の段階では今よりも厳しめなラストで、東北に住む遠縁のおじいちゃんの家に引き取られたものの、その人もいろんな事情を抱えていて、そんなに裕福ではなく、歓迎されていないといった感じでした。できあがった脚本をいろんな方に読んでいただくと好評なのですが、なかなか資金が集まらず…。
撮影に向けて企画が動き出したのは4年くらい前です。長谷川(晴彦)さんに脚本を読んでいただき、長谷川さんの紹介で白石(和彌)さんが企画プロデュースとして参加してくださいました。そこからやっと、具体的に進行していったのです。
──プロデューサーとして長谷川晴彦さんが加わり、白石和彌さんに企画プロデュースをお願いして、企画が動き始めたとのことですが、プロデューサーと企画プロデュースというのは仕事内容が違うのでしょうか。
長谷川さんは映画を公開に持っていくまでの包括的プロジェクトを考え、白石さんはこの脚本を映画にするための応援団長的な立ち位置でしたが、メインビジュアル作りや宣伝方法は白石さんがこれまでやってこられた映画を参考にしながら進めているので、今もいろいろとアドバイスをいただいています。
──最終稿のラストには長谷川さん、白石さんの意見も入ってるのでしょうか。
白石さんから「空っぽのプールから始まるならば、水が満ち溢れたプールを最後に描いた方がいいというアドバイスをいただき、姉妹たちの終わり方が決まりました。岩切の最後に関しては、最終的には生田斗真さんが決まってからでした。準備稿も同じシチュエーションでしたが、違う展開で終わっていたのです。それが岩切を生田さんが演じると決まり、ラストシーンはこういう風な芝居になると見えた瞬間にこの終わり方も見えたのです。
白石さんが加わってくださり、生田さんが主演に決まり、脚本の最後が決まりました。
『渇水』2023年6月2日(金)全国公開
<STORY>
日照り続きの夏、市内には給水制限が発令されていた。市の水道局に勤める岩切俊作(生田斗真)の業務は、水道料金滞納家庭や店舗を回り、料金徴収と、水道を停止すること【=停水執行】。貧しい家庭を訪問しては忌み嫌われる日々であった。俊作には妻と子供がいるが別居中で、そんな生活も長く続き、心の渇きが強くなっていた。ある日、停水執行中に育児放棄を受けている幼い姉妹と出会う。自分の子供と重ね合わせてしまう俊作。彼は自分の心の渇きを潤すように、その姉妹に救いの手を差し伸べる―
『渇水』
原作:河林満「渇水」(角川文庫刊)
監督:髙橋正弥
脚本:及川章太郎
音楽:向井秀徳
企画プロデュース:白石和彌
出演:生田斗真、門脇麦、磯村勇斗、山﨑七海、柚穂/宮藤官九郎/宮世琉弥、吉澤健、池田成志、篠原篤、柴田理恵、森下能幸、田中要次、大鶴義丹/尾野真千子
配給:KADOKAWA
2023/日本/カラー/ヨーロピアンビスタ/100分
©「渇水」製作委員会
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/kassui/
2023年6月2日(金)全国公開
※山崎七海の崎は立つ崎(たつさき)が正式表記
※高橋正弥の高は、はしごだかが正式表記